派遣契約の不適切な運用が招くリスクと弁護士による適切な対応方法

派遣契約の不適切な運用が招くリスクと弁護士による適切な対応方法

文責:石居 茜

1 派遣契約の適正な運用が求められる背景

(1)企業のコンプライアンス強化と派遣労働の重要性

派遣労働者は、企業が人手不足の中、採用が困難な中で、重要性を増しています。

他方で、労働者派遣については、常用代替の防止の観点や、偽装請負等の労働者派遣法の潜脱等の観点から、派遣可能期間の制限を始めとした様々なルールが設けられており、違反の場合、指導・助言、企業名の公表、許可取消し、改善命令、事業停止命令、罰則等のリスクがあります。

そのため、労働者派遣法をはじめとする法令を順守し、適正に派遣労働者を受け入れることが重要となります。

また、派遣先社員が派遣労働者にセクハラ・パワハラなどのハラスメントを行うなどにより、派遣労働者に対する安全配慮義務が問われ、派遣先に損害賠償請求される事例も増えています。

こういったトラブルの予防や、起こってしまった際の適切な対応についても日ごろから十分に準備しておくことが重要です。

2 企業が陥りやすい派遣契約の不適切な運用とは?

(1)派遣禁止業務への派遣(例:港湾業務、建設、医療関係 など)

派遣禁止業務は、以下の①~⑤が指定されています。

① 港湾運送業務

港湾運送業務は、埠頭における船舶への貨物の積み込みや積み降ろし、荷造り、荷ほどき等や港湾倉庫内での作業等です。入出港数、貨物の量などにより需要のピークの差が激しく、港湾労働者については、港湾運送に必要な労働力の確保と港湾労働者の雇用の安定等を目的とした港湾労働法において定められています。港湾運送業務は、同法に基づき、港湾労働者派遣制度があるため、派遣禁止業務とされています。

② 建設業務

建設業務は複数の下請関係の中で進行することが多く、建設労働者の雇用の改善等に関する法律において、労働者を雇用する者と業務の指揮命令をおこなう者が同一でなければいけないとされています。

建設業務は、事故等が起こった際に、労働者に責任を負うべき事業主は誰かを明確にする必要があるため、直接雇用とし、派遣禁止業務とされています。

建設業であっても、事務作業に従事させるために派遣労働者を受け入れることは違法ではありませんが、派遣禁止業務である建設業務の一部を手伝わせるなどがあってはいけません。

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③ 警備業務

警備業務は警備業法により、派遣ではなく請負形態でおこなうよう定められており、派遣禁止業務とされています。

以下の業務が、警備業務にあたります。

・事務所、住宅、興行場、駐車場、遊園地等における盗難等の事故の発生を警戒し、防止する業務(防犯カメラの監視業務も含む)

・人もしくは車両の雑踏する場所またはこれらの通行に危険のある場所における負傷等の事故の発生を警戒し、防止する業務(大型スーパーなどの駐車場や道路工事等現場周辺等で人や車両を誘導する業務、混雑する場所での雑踏整理なども含む)

・運搬中の現金、貴金属、美術品等に係る盗難等の事故の発生を警戒し、防止する業務

・人の身体に対する危害の発生を、その身辺において警戒し、防止する業務

④ 病院・診療所などにおける医療関連業務

人の生命を預かる医療関連業務は、医師、看護師、薬剤師等の専門職が1つのチームを組んで行うものであり、適正な医療の提供のためには、チームの構成員が相互に能力・治療方針を把握し、十分な意思疎通の下に行われる必要があります。そのため、派遣は適さないとされ、医療関連業務は派遣禁止業務とされています。

なお、病院や診療所における事務スタッフの派遣は違法ではなく、派遣労働者とすることも可能です。

医療関連業務では、以下の場合、例外的に派遣をおこなうことが認められています。

・社会福祉施設等の医療関連業務

・紹介予定派遣として従事する場合

・産前産後休業、育児休業、介護休業中の労働者への代替業務として派遣する場合

・医師の業務で離島などのへき地の場合、または厚生労働省が医療従事者を確保するために派遣スタッフを従事する必要があると定めた地域で医療活動をおこなう場合

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⑤ 弁護士・社会保険労務士などの士業

弁護士、社会保険労務士、公認会計士、税理士などのいわゆる士業は、有資格者が委託を受けて業務を行い、他人から指揮命令を受ける派遣の形態にそぐわないので、派遣禁止業務に該当します。

このほか、人事労務管理関係のうち、派遣先において団体交渉又は労働基準法に規定する協定の締結等のための労使協議の際に使用者側の直接当事者として行う業務は、労働者派遣が禁止されています。

派遣禁止業務に派遣スタッフを従事させた場合、派遣元企業には懲役を含む罰則があります。事業停止命令などの行政処分の対象となることもありますので、注意が必要です。

(2)派遣期間制限の違反(3年ルール・抵触日管理の不備)

①労働者派遣法の3年ルールとは

(1)派遣先事業所単位の期間制限

労働者派遣法では、派遣先の同一の事業所に派遣できる期間(派遣可能期間)は、原則3年が上限となっています。3年を超えて受け入れるためには派遣先事業所の過半数労働組合等(過半数労働組合がない場合には民主的な手続により選出された過半数代表者)から意見聴取することにより、さらに3年間派遣社員の受け入れが可能となります。

(2)派遣社員個人単位の期間制限

同一の派遣社員を派遣先の同一の組織単位(課)に派遣できる期間は3年が限度となります。同一の事業所であっても、他の組織単位(課)において派遣社員を就業させることは可能とされています。「組織単位」とは、業務のまとまりがあり、かつ、その長が業務の配分および労務管理上の指揮監督権限を有する単位として派遣契約上明確化したものをいうとされています。

派遣先が、同一の組織単位において3年の上限を超えて継続して同一の派遣社員を受け入れた場合は違法派遣となり、労働契約申込みみなし制度の適用の対象となります。労働契約申込みみなし制度とは、派遣先が違法派遣を受け入れた時点で、派遣先から派遣社員に対し、その時点における派遣社員の派遣会社における労働条件と同一の条件を内容とする労働契約の申込みをしたものとみなされる制度です。

3年ルールにより、派遣先に同一の派遣社員をそれ以上の期間受け入れたいニーズがある場合には、派遣会社としては、無期雇用に切り替えることが考えられます。派遣期間終了後、派遣先に直接雇用を求めるケースもあります。

派遣会社のニーズや派遣社員の働き方のニーズによって、3年ルールの下、派遣先を変えて働くことを継続する場合もあります。

派遣会社によっては、優秀な人材の安定的な確保や、派遣先のニーズにこたえるため、無期雇用派遣を促進している会社もあります。

なお、派遣社員も、有期雇用契約が反復更新されて通算5年を超えた場合に、従業員の申込により無期雇用契約に転換することができます(労働契約法18条の無期転換ルール)。

(3)偽装請負や名ばかり派遣(業務請負と派遣の違いを誤認)

偽装請負とは、契約としては業務委託契約や請負契約であるが、実態として、委託先(発注企業)が受託先(請負企業)の従業員に直接指示を出して労働させている場合です。

受託先が委託先の従業員に直接指揮命令して労働させたいのであれば、労働者派遣法による許可を受けた事業主から派遣された労働者に対して指揮命令をしなければ派遣法違反となり、罰則の適用もあり得ます。また、職業安定法上の違法な労働者供給事業とみなされる場合もあり、こちらも罰則の適用もあり得ます。

さらに、受託先の従業員が委託先に労働契約の申し込みをしたものとみなされ、従業員との直接雇用が成立する可能性もあります。

職業安定法施行規則第4条1項は、適法な請負となるための基準として、下記の4つをすべて満たした場合であるとしています。

① 請負企業(受託先)が作業の完成についてすべての責任を負うものであること(契約が仕事の完成ではなく、一定の作業を完了する内容の準委任契約の場合、契約上の作業の完了について受託先が責任を負うものであること)

② 請負企業(受託先)が作業に従事する労働者を、指揮監督するものであること

③ 請負企業(受託先)が作業に従事する労働者に対し、使用者として法律上の義務を負うものであること

④ 単に肉体的な労働力を提供するものでないこと

厚労省は、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区別に関する基準」を定めています。そこでは、適法な請負となるための基準として、以下の判断基準を提示しています。

① 自己の従業員の直接利用

以下を満たすことにより、請負企業(受託先)が自己の従業員を直接利用していることが必要であるとしています。

・ 請負企業(受託先)が、請負企業(受託先)の従業員に対する業務遂行方法に関する指示その他の管理を自ら行うこと

・ 請負企業(受託先)が、請負企業(受託先)の従業員の始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等に関する指示その他の管理を自ら行うこと

・ 請負企業(受託先)が、従業員の労働時間を延長する場合又は従業員を休日に労働させる場合における私事その他の管理を自ら行うこと

・ 請負企業(受託先)が、服務規律に関する指示を行う等、企業秩序の維持、確保等のための指示その他の管理を自ら行うこと

・ 請負企業(受託先)が、従業員の服務上の規律に関する事項についての指示その他の管理を自ら行うこと

・ 請負企業(受託先)が、従業員の配置等の決定及び変更を自ら行うこと

② 発注者から独立した業務遂行

以下を満たすことにより、請負企業(受託先)が請負契約により請け負った業務を自己の業務として、発注企業(委託先)から独立して処理していることが必要であるとしています。

・ 業務の処理に要する資金をすべて請負企業(受託先)の責任で調達し、支払っていること

・ 業務の処理について、請負企業(受託先)が法律上の事業主としてのすべての責任を負うこと

③ 単に肉体的な労働力を提供するものでないこと

以下を満たすことにより、請負企業(受託先)が、単に肉体的な労働力を提供するものでないことが必要であるとしています。

・ 請負企業(受託先)が、自己の責任と負担で準備し、調達する機械、設備もしくは器材(業務上必要な簡易な工具は除く)または、材料・資材により業務を処理すること

・ 請負企業(受託先)が、自ら企画又は自己の有する専門的な技術若しくは経験に基づいて業務を処理すること

委託先(発注企業)が備品・資材等を支給する場合もあり、それ自体が直ちに違法というわけではありませんが、備品・資材等の供給により、実質的に、委託先(発注企業)が受託先(請負企業)の従業員に対し、作業方法を指示していたり、具体的に指揮命令をしている場合には、偽装請負であり、違法派遣となります。

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(4)労働条件の不備や派遣労働者の待遇差(同一労働同一賃金の未対応)

派遣社員の同一労働・同一賃金とは、派遣法で以下の内容として定められており、派遣会社は、「均衡方式・均等方式」「労使協定方式」のいずれかの方式で、派遣社員について、派遣先の通常の社員との同一労働同一賃金を実現する必要があります。

① 均衡方式と均等方式

(1) 不合理な待遇差別の禁止(均衡方式)

派遣会社は、その雇用する派遣社員の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、派遣先の通常の社員との①職務の内容、②職務の内容および配置の変更の範囲、③その他の事情の相違を考慮して、不合理と認められる相違を設けてはいけません。

(2)差別的取扱いの禁止(均等方式)

派遣会社は、その雇用する派遣社員について、派遣先の通常の社員と①職務内容、②職務内容・配置の変更範囲が同じ場合には、基本給、賞与その他の待遇について差別的取扱いをしてはいけません。

② 労使協定による一定水準を満たす待遇決定方式

派遣法は、派遣社員の待遇決定を、①派遣先の社員との均等・均衡方式と、②労使協定による一定水準を満たす待遇決定方式との選択制とし、労使協定による一定水準を満たす派遣社員の待遇決定を行う場合、均等・均衡方式を適用除外としました。

派遣会社は、過半数労働組合又は過半数代表者(過半数労働組合がない場合に限ります。)と以下の事項を定めた労使協定を書面で締結し、労使協定で定めた事項を遵守しているときは、一部の待遇を除き、均等・均衡方式が適用除外となり、労使協定に基づき待遇が決定されることとなります。

ただし、次のa、bの待遇については、労使協定の対象とならないため、均等待遇、均衡待遇の適用対象となります。

a 派遣会社が、派遣社員と同種の業務に従事する派遣会社の社員に対して、業務の遂行に必要な能力を付与するために実施する教育訓練

b 派遣先が、派遣会社の従業員に対して利用の機会を与える給食施設、休憩室及び更衣室

そして、労使協定方式を採用する場合、労使協定で定める事項は、以下の通りです。

① 労使協定の対象となる派遣社員の範囲

② 賃金の決定方法(次のa及びbに該当するものに限ります)

a 派遣社員が従事する業務と同種の業務に従事する一般労働者の平均的な賃金の額と同等以上の賃金額となるもの

b 派遣社員の職務の内容、成果、意欲、能力又は経験等の向上があった場合に賃金が改善されるもの

aについては、職務の内容に密接に関連して支払われる賃金以外の賃金(例:通勤手当、家族手当、住宅手当、別居手当、子女教育手当)を除きます。

③ 派遣社員の職務の内容、成果、意欲、能力又は経験等を公正に評価して賃金を決定すること

④ 労使協定の対象とならない待遇(教育訓練、給食施設、休憩室、更衣室の利用)を除く待遇の決定方法

これは、派遣会社に雇用される通常の社員(派遣社員を除く。)との間で不合理な相違がないものに限ります。

⑤ 派遣従業員に対して段階的、計画的な教育訓練を実施すること

⑥ その他の事項

・有効期間(2年以内が望ましいとされています)

・労使協定の対象となる派遣社員の範囲を派遣社員の一部に限定する場合はその理由

・特段の事情がない限り、一つの労働契約の期間中に派遣先の変更を理由として、協定の対象となる派遣社員であるか否かを変えようとしないこと

労使協定が適切な内容で定められていない場合、上記②~⑤として労使協定に定めた事項を遵守していない場合は、労使協定方式は適用されず、派遣先の通常の社員との均等・均衡方式が適用されますので、注意が必要です。

3 不適切な運用が企業にもたらすリスク

(1)労働者派遣法違反による行政指導・事業停止命令・罰則

労働者派遣法違反の場合、指導・助言、企業名の公表、許可取消し、改善命令、事業停止命令、罰則等のリスクがあります。

(2)裁判所対応のリスク(派遣労働者からの訴訟)

派遣可能期間を超えて派遣労働者を受け入れた場合には違法派遣となり、労働契約申込みみなし制度の適用の対象となり、派遣先が違法派遣を受け入れた時点で、派遣先から派遣社員に対し、その時点における派遣社員の派遣会社における労働条件と同一の条件を内容とする労働契約の申込みをしたものとみなされます(労働者派遣法40条の6)。

これにより、派遣労働者から、派遣先企業に対し、地位確認請求等の訴訟を提起される可能性があります。

また、派遣先企業の従業員が派遣労働者にハラスメントを行った場合、派遣労働者に対する安全配慮義務違反があった場合に、派遣労働者から派遣先企業が損害賠償請求されるリスクがあります。

(3)取引先・社会的信用の低下(コンプライアンス違反によるブランド毀損)

労働者派遣法違反による指導・助言、企業名の公表、送検などによって、あるいは、派遣労働者からの損害賠償請求訴訟の提起によって、コンプライアンス違反のイメージが定着し、取引先の信用や、社会的信用の低下を招くリスクがあります。

(4)労務トラブル増加と企業負担の増大(是正勧告の対応、人事労務部門の業務増加)

労働者派遣法違反や安全配慮義務違反などにより、労務トラブルが増加すると、是正勧告等への対応、提訴への対応などにより、会社の人事労務部門の業務が増加し、担当の職員が疲弊するなど、過重労働を招くリスクもあります。

損害賠償や弁護士費用等、企業の負担も増加します。

4 企業が取るべき適正な派遣契約運用と対応策

(1)契約前の適法性チェック(契約書の適正化・業務範囲の明確化)

労働者派遣法を遵守しているか、契約書を適正化し、各種書式を整備し、派遣可能期間の抵触がないように業務範囲を明確にすることが必要です。

(2)労務管理体制の強化(派遣労働者の労働条件・待遇差の見直し)

同一労働同一賃金に抵触しないよう、派遣労働者の待遇について見直し、整備する必要があります。

(3)派遣元との適正な関係構築(定期的な契約更新・運用見直し)

派遣元と定期的なチェックを行い、労働者派遣法を遵守した対応を相互にチェックし、整備することが必要です。

(4)トラブル発生時の弁護士対応(事前のリーガルチェック・訴訟対応)

トラブルが発生したときは、速やかに弁護士に相談し、リスクを最小限にすべく対応することも大切です。

5 当事務所サポート内容

当事務所では、労働者派遣契約書やその他関連書式の作成、チェックはもちろん、運用についてのご相談、偽装請負に関するご相談、同一労働同一賃金対応へのご相談、派遣法違反を指摘されたときの行政対応や、派遣労働者等からの個別の訴訟の代理人まで、紛争予防からトラブル対応まで、広くご相談に乗ります。

大きなリスクを引き起こさないためにも、トラブルが起きていないときから、早めに当事務所にご相談ください。

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Last Updated on 2025年6月30日 by loi_wp_admin


この記事の執筆者:弁護士法人ロア・ユナイテッド法律事務所
当事務所では、「依頼者志向の理念」の下に、所員が一体となって「最良の法律サービス」をより早く、より経済的に、かつどこよりも感じ良く親切に提供することを目標に日々行動しております。「基本的人権(Liberty)の擁護、社会正義の実現という弁護士の基本的責務を忘れず、これを含む弁護士としての依頼者の正当な利益の迅速・適正かつ親切な実現という職責を遂行し(Operation)、その前提としての知性と新たな情報(Intelligence)を求める不断の努力を怠らず、LOIの基本理念である依頼者志向を追求する」 以上の理念の下、それを組織として、ご提供する事を肝に命じて、皆様の法律業務パートナーとして努めて行きたいと考えております。現在法曹界にも大きな変化が起こっておりますが、変化に負けない体制を作り、皆様のお役に立っていきたいと念じております。

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