運送業の荷待ち問題と未払い残業代請求への対応のポイント

文責:中野 博和

1 荷待ち問題とは?

荷待ち問題とは、運送業において、トラックドライバーが荷物の積み込み(荷積み)や積み下ろし(荷下ろし)の際に、荷主や元請け業者の都合により、長時間にわたって待機せざるを得ない状況を指します。

荷待ちが発生する背景には、以下のような要因が挙げられます。

荷主側の都合:積み込み・積み下ろし作業の効率化不足、準備不足、他社のトラックとの兼ね合い、人手不足など。

物流拠点の混雑:大型物流センターや倉庫での入出荷作業が集中することによる混雑。

計画性の欠如:運行計画や配車計画において、荷待ち時間を適切に見込んでいないケース。

契約上の問題:荷待ち時間に対する対価が明確に定められていない、または不当に低い設定となっている場合。

この荷待ち問題は、トラックドライバーの労働負担を増大させるだけでなく、労働時間の適正な把握を困難にし、結果として未払い残業代の問題を引き起こす温床となっています。

2 荷待ち時間は労働時間に該当する?

荷待ち時間が労働時間であると認められれば、その時間に応じて法定労働時間を超えた分は法定時間外労働となり、残業代を支払う必要が生じてしまいます。

そのため、荷待ち時間が労働基準法上の労働時間に該当するのかが問題となります。

労働基準法上の「労働時間」とは、「使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定めるのであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるものではない。」(三菱重工業長崎造船所事件・最一小判平成12年3月9日労判778号11頁など)とされています。

また、実際に作業を行っていない時間について労働時間に該当しないというためには、労働からの解放が保障されていることを要するところ、労働者が当該時間において労働契約上の役務の提供を義務付けられていると評価される場合には、労働からの解放が保障されているとはいえず、使用者の指揮命令下に置かれている時間として労働時間に該当するものとされています(大星ビル管理事件・最一小判平成14年2月28日労判822号5頁など)。

そのため、荷待ち時間が労働時間に該当するか否かについては、最終的には個別の事案によって異なり得るものですが、例えば、荷積みや荷下ろしのために特定の場所で待機しており、その場所を離れることができない、又は離れると直ちに業務に対応できないような状況にある場合などは、荷待ち時間が労働時間に該当する可能性が高いといえます。

実際に、田口運送事件(横浜地相模原支判平成26年4月24日労判1178号86頁)では、「工場に到着後は、荷物の積み込みを待つ出荷場のトラックの列に加わり、荷物を積み込んだ際に十分に冷却できるよう、冷蔵庫の保冷器を稼働させたままトラックのエンジンを切って停車させる。しかし、トラックを停車させる場所は出荷場へ向かう行列の途中であるから、行列が前に進む毎に自分の運転するトラックも前進させなければならず、そのため、原告らは、トラックを離れることはできず、原告らがトラックから離れることができるのは、トラックを停車させた位置から200m離れたところにあるAの事務所まで、その日に配送する荷物の伝票を受け取りにいく往復の約5分程度にすぎない。」「原告らの配送先においては、荷下ろしのための駐車スペースがない所もあり、そのような場合、原告らは、一旦、配送先から離れ近くの国道の側道等にトラックを駐車させ、配送先からの連絡があるまでトラック内で待機することになるが、原告らは、いつ配送先からの連絡があるか分からない状態でトラックとその中の荷物を継続的に管理保管し続けなければならないため、トラックを離れることもできず、携帯電話を手放すこともできない。」なとと認定した上で、「出荷場や配送先における待機時間は、いずれも待ち時間が実作業時間に当たり、使用者である被告の指揮命令下に置かれたものと評価することができるものであり、その待機時間中に原告らがトイレに行ったり、コンビニエンス・ストアに買い物に行くなどしてトラックを離れる時間があったとしても、これをもって休憩時間であると評価するのは相当ではない。」と判断しています。

他方で、その場から離れることが許され、個人の自由な行動が保障されている場合は、労働時間には該当しないと判断されることもあります。ただし、上記のとおり、労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるため、会社側がトラックドライバーに対して、荷待ち時間は自由である旨伝えていたとしても、これのみによって直ちに労働時間に該当しないと判断されるわけではなく、荷待ちの具体的な状況等によっては、労働時間に該当する可能性もあるので、注意が必要です。

3 未払い残業代請求の実態

荷待ち時間が労働時間であると認められれば、その時間に応じて法定労働時間を超えた分は法定時間外労働となり、残業代を支払う必要があります。

トラックドライバーの労働時間は、運転日誌、デジタルタコグラフ(デジタコ)の記録、メールのやりとり等の証拠から認定されることになりますが、とりわけデジタコは、エンジンの回転数、走行速度、走行距離等の運行記録を示す重要な証拠となり得ます。

荷待ち時間の労働時間については、デジタルタコグラフに記録されたエンジンの回転数等から待機列に並んでいたと認められ得る状況であったか、不自然に長い時間トラックが止まっていなかったか等を検討する必要があります。

また、集荷物の種類や荷積み・荷下ろしの場所等の個別の事情に応じて、荷待ち時間も変わってきますので、これらの事情も確認しておく必要があります。

したがって、トラックドライバーから未払い残業代を請求された場合において、荷待ち時間が問題となっている場合には、これらの点を中心に事実関係を確認する必要があります。

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Last Updated on 2025年8月8日 by loi_wp_admin


この記事の執筆者:弁護士法人ロア・ユナイテッド法律事務所
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