
文責:中村 仁恒
1 はじめに
近年、職場におけるハラスメント対策は、企業にとって重要な経営課題となっています。従来は、暴言、人格否定、長時間の叱責、暴力など、比較的明白な言動が問題とされることが多くありました。
しかし、近時注目されているのが「フキハラ」、すなわち「不機嫌ハラスメント」です。フキハラとは、上司や同僚が不機嫌な態度、冷たい対応、威圧的な雰囲気、きつい口調、ため息、無視に近い反応などを継続することにより、周囲の労働者に精神的負荷を与える行為を指す言葉として使われています。
近時、エネルギー関連企業の若手社員が出向先で精神疾患を発症し自死した事案について、上司の不機嫌な態度や職場でのフォロー不足などを踏まえ、労災認定を認める裁判例が報道されました。この事案は、いわゆるフキハラが企業の労務リスクとして無視できないことを示すものといえます。
フキハラは、明確な暴言や暴力がないため、問題の把握や適切な処置をしにくく、対策が遅れやすい点に特徴があります。しかし、放置すれば、メンタル不調、休職、退職、労災申請、損害賠償請求など、重大な問題につながり得ます。
本記事では、フキハラの特質やパワハラ防止法上の位置づけを踏まえ、企業に求められるハラスメント対策、労災問題への対応について、弁護士の視点から解説します。
2 事案の概要
報道によれば、本件は、大手企業に入社した若手社員が、子会社への出向後に精神疾患を発症し、自死したことについて、遺族が労災認定を求めた事案です。
当該社員は、出向先の部署に配属されましたが、配属先は少人数のグループであり、上司や同僚との距離が近い一方で、十分な教育体制やフォロー体制が整っていたとはいえない状況だったとされています。
また、上司が当該社員に対して、厳しい態度やきつい口調で接していたことも指摘されています。業務上のやり取りにおいて、詰問調の発言や冷たい対応があり、当該社員が上司を怖がっていたことも問題となりました。
重要なのは、本件が、典型的な暴力や明白な人格否定発言だけを理由に労災認定されたものではないという点です。日々の不機嫌な態度、冷淡な対応、厳しい口調、十分なフィードバックの欠如、職場での孤立感、教育・支援体制の不足などが積み重なり、強い心理的負荷を与えたものと評価された点に特徴があります。
本件では、労働基準監督署が当初、労災とは認めず、不支給処分を行ったとされています。その後、遺族側が不支給処分の取消しを求めて訴訟を提起し、裁判所は、労基署の判断を取り消し、業務による心理的負荷を認めました。
この判断は、企業にとって重要です。長時間労働や明白な暴言がない場合でも、出向、配置、教育体制の不備、上司との関係性、職場でのフォロー不足、不機嫌な態度の継続などが総合的に評価され、労災認定につながる可能性があるからです。
企業としては、「怒鳴っていないから問題ない」「明確な暴言がないからハラスメントではない」「業務指導の範囲内である」といった形式的な理解では不十分です。フキハラを含め、労働者に過大な精神的負荷を与える職場環境がないかを、企業として継続的に点検し、対策を講じる必要があります。
3 「フキハラ」の特質とパワハラ防止法における位置づけ
フキハラの特徴は、行為の一つ一つが、単独では違法とまではいえないように見える場合があることです。
たとえば、上司が常に不機嫌そうな表情で接する、質問に対してため息をつく、必要最低限の返答しかしない、ミスをした際に冷たい視線を向ける、他の社員の前で不満そうな態度を示す、改善点を伝えず突き放す、相談しにくい雰囲気を作る、といった行為が問題となり得ます。
これらは、録音やメールに明確な暴言が残るタイプのハラスメントとは異なり、証拠化が難しいことがあります。そのため、企業の人事部門や管理職が「そこまで大きな問題ではない」と判断してしまうことも少なくありません。
しかし、労働者にとっては、毎日顔を合わせる上司が不機嫌であること、質問するたびに萎縮すること、自分が職場で歓迎されていないと感じることは、大きな心理的負荷となります。特に、若手社員、異動直後の社員、出向中の社員、経験の浅い社員、少人数部署に所属する社員にとって、フキハラは深刻な影響を及ぼします。
いわゆるパワハラ防止法と呼ばれる労働施策総合推進法では、職場におけるパワーハラスメントについて、企業に防止措置を講じる義務を課しています。職場におけるパワーハラスメントは、一般に、①優越的な関係を背景とした言動であること、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること、③労働者の就業環境が害されること、という3要件から整理されます。
フキハラも、これらの要件に該当する場合には、パワハラの一種として評価される可能性があります。上司が部下に対して不機嫌な態度を継続する場合、職務上の地位や人事評価、業務指示権限などを背景とした優越的な関係が存在します。また、指導の必要性があったとしても、その方法が過度に威圧的であったり、労働者を萎縮させたりする場合には、業務上必要かつ相当な範囲を超えると評価される余地があります。
そこで、フキハラは、単なる「上司の性格の問題」や「職場の雰囲気の問題」にとどまりまらず、企業のハラスメント対策、メンタルヘルス対策、労災対策に直結する問題であるとの認識の下、適切な対策が必要です。
4 ハラスメント対応や労災問題に関して弁護士に相談するメリット
企業がフキハラ、パワハラ、メンタル不調、休職、労災申請といった問題に直面した場合、早期に弁護士へ相談することには大きなメリットがあります。
まず、目に見えにくい潜在的なハラスメントを客観的に評価できます。フキハラは、企業内部だけで判断すると、「上司の態度が少し厳しいだけ」「本人の受け止め方の問題」「業務指導の範囲内」と評価してしまうことがあります。しかし、弁護士が関与することで、問題となる言動が法的にどの程度リスクを有するのか、パワハラ防止法上の対策が十分か、企業の安全配慮義務違反が問われる可能性があるかを検討できます。
また、ハラスメント問題では、初動対応が極めて重要です。相談を受けた企業が対応を先延ばしにしたり、被害申告者を放置したり、加害者とされる上司に安易に情報を伝えたりすると、二次被害や職場内の混乱を招く可能性があります。
さらに、フキハラが原因で労働者がメンタル不調となった場合、休職対応、復職判断、産業医面談、労災申請への対応、私傷病休職との関係など、複数の労務問題が連動して発生します。企業としては、ハラスメント調査だけを切り離して考えるのではなく、休職、労災、復職、配置転換、懲戒処分、注意・指導、再発防止策までを一体的に検討する必要があります。
弁護士に相談することで、これらの問題について、法的リスクを踏まえたシームレスな対応が可能となります。
5 事務所のサポート内容
当事務所では、企業のハラスメント対策、フキハラ対策、労災対応、メンタルヘルス問題、休職・復職対応について、実務的かつ迅速なサポートを行っています。
具体的には、フキハラやパワハラに関する相談があった場合の初動対応、関係者ヒアリングの進め方、証拠の確認方法、被害申告者への対応、加害者とされる社員への対応について助言します。
また、社内調査の実施や調査報告書の作成もサポートします。フキハラは事実認定が難しいため、単に「言った・言わない」を確認するだけでは不十分です。職場環境、業務内容、指導の必要性等の言動がなされた経緯、言動の態様、継続性、被害申告者の状態、周囲の認識などを総合的に整理することが重要です。
さらに、調査結果を踏まえ、懲戒処分、配置転換、業務上の指導、管理職研修、再発防止策の策定についても助言します。メンタル不調や休職が発生している場合には、診断書の確認、産業医との連携、復職可否の判断、労災申請への対応についてもサポートします。
企業においては、「明確な暴言や暴力がないから大丈夫」と考えるのではなく、日常的な不機嫌な態度や冷たい対応が、労働者にどのような影響を与えているかを慎重に確認することが重要です。
フキハラは、企業にとって見落としやすい一方で、放置すれば重大な労務リスクとなり得ます。ハラスメント対策、フキハラ対策、労災対応、休職・復職対応に不安がある企業は、早期に弁護士へ相談することをおすすめします。当事務所では、企業の実情に応じた実践的な対策を提案し、トラブルの予防から発生後の対応まで一貫してサポートいたします。
▼関連記事はこちら▼
会社側のハラスメント対応を弁護士に依頼するメリットとは?対応の流れを解説!
クラッシャー上司とは?離職率を高めないために企業が取るべき対策について企業労務に詳しい弁護士が解説
Last Updated on 2026年7月10日 by loi_wp_admin



