退職後に従業員から損害賠償請求された際の対応について弁護士が解説!

文責:織田 康嗣

1.退職後の従業員からの損害賠償請求の概要

退職した従業員から、在職中に発生した問題に関し、損害賠償請求がなされることがあります。未払い残業代といった賃金請求も典型的ですが、従業員が在籍中に言い出せなかった諸問題について、退職後の損害賠償という形で、問題が顕在化することもあります。

2.退職後の損害賠償請求の背景

在籍中に生じた問題である以上、会社在籍中に損害賠償請求を行うことも可能ですが、退職後に請求される背景として、次のような内容が考えられます。

2-1.早期に退職せざるを得なかった場合

社内で生じたハラスメントに耐えられず、いち早く被害から逃れるために、損害賠償請求を起こす前に会社を退職することがあります。また、労災の事案においても、被災によって今後も働き続けることが難しいと判断した従業員が早期に退職することもあります。

こうした従業員が、退職後に在籍中に発生した問題について、損害賠償請求を起こすことがあります。

2-2.在籍中は会社に言い出せなかった場合

同じ職場で働きながら、社内のハラスメント被害を申し出ることが難しいと考えてしまう従業員もいます。特に小規模の会社であれば、勤務場所等の変更も難しく、狭い人間関係の中で問題を解決しなければならないことから、被害を受けた従業員が声を上げにくいこともあります。在籍中は会社に言い出せなかった従業員が、退職後に損害賠償請求という形で声を上げることがあります。

2-3.退職後の意識の変化

パワハラ防止法をはじめとした労働法制の改正に加え、インターネット上にも、様々な法律情報が溢れています。

在籍中に違法であるという認識に至らなかったとしても、退職後に従業員が自ら調べたり、弁護士等の専門家に相談するなどして、在籍中に発生した問題が損害賠償請求の対象になることを認識することもあります。

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3.典型的な損害賠償請求の事例

3-1.ハラスメントに関する請求

在籍中に受けたパワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、マタニティハラスメント等の各ハラスメントについて、会社の安全配慮義務違反(債務不履行責任)や使用者責任(不法行為責任)を理由に損害賠償請求を求めることがあります。

ハラスメント加害者本人に対する損害賠償請求(不法行為に基づく損害賠償請求)も可能ですが、上記の各構成により、会社に対しても損害賠償を求めることが可能です。

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3-2.労災に関する請求

在籍中に被災した労災事故に関し、会社の安全配慮義務違反を理由に損害賠償請求を求めることがあります。労災事故が発生した場合、労災保険の適用がありますが、労災保険では、全ての損害をカバーできないことがあります。例えば、被災により後遺障害が残った場合、後遺症慰謝料等の請求も可能になりますが、慰謝料は労災保険ではカバーされません。

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3-3.不当解雇に関する請求

会社が不当解雇を行った場合、元従業員は地位確認請求により、復職やバックペイ(解雇無効期間中の賃金)の支払いを求めるのが通常ですが、これに加えて、行った解雇が違法であるとして、慰謝料請求(損害賠償請求)を求めることもあります。

しかしながら、一般的には、無効な解雇を行ったとしても、バックペイの支払いをもって、損害は補填されたと解されるため、損害賠償請求が認められることは多くありません。損害賠償請求が認められるのは、違法な解雇であり、かつバックペイの支払いをもっても補てんできないような精神的苦痛を負った場合に限定されます。

例えば、慰謝料請求を認めた事例として、以下のようなものがあります。

(名古屋高判平成17・2・23労判909号67頁)
解雇によって自らの意思に反してその職を奪われ、精神的損害を被ったものと認められ、これを慰謝するには30万円をもって相当と認める。
(名古屋地判令和2・2・28労判1231号157頁)
確たる証拠もなく窃取を理由に産前休業の直前に解雇されたものであること、解雇の通告後、その影響と思われる身体・精神症状を呈して通院していることに照らすと、未払賃金の経済的損失のてん補によっても償えない特段の精神的苦痛が生じたと認めるのが相当である。精神的苦痛に対する慰謝料額として50万円が相当である。

4.企業側の対応策

退職してから損害賠償請求がなされる場合、その段階では既に弁護士が介入しており、本人と直接意思疎通を取ることが出来なくなっている場合も少なくありません。

会社としては、そうした事態に発展する前に、可能な限り問題を解決しておきたいところであり、以下のような対応策が考えられます。

4-1.適切な労務管理の重要性

損害賠償の対象となるような違法解雇を行わないよう、仮に解雇を行う場合にも、適法な理由の存在を確認しておく必要があります。適法に解雇を行うには、客観的合理的理由の存在と社会通念上の相当性の各要件を充足する必要があるので(労契法16条)、弁護士とも相談のうえ、解雇要件を充足するか確認するべきです。

また、当然ではありますが、ハラスメントが生じないような就労環境の整備や、労災事故を防止するべく、安衛法上の義務はもちろん、安全管理の徹底が求められます。

4.2.通報・相談窓口の整備

公益通報者保護法の令和2年改正により、常時使用する労働者の数が300人を超える事業者は、内部公益通報に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備等が義務付けられています(同法11条)。また、常時使用する労働者の数が300人以下の事業者であっても、努力義務は課されています。

このほか、パワハラ防止法(労働施策総合推進法)においても、令和4年4月から、中小企業に対してもパワハラ防止義務が義務化されています。ここでは、企業に対し、①パワハラについての方針を従業員に周知・啓発すること、②相談に対応するための体制整備、③相談に対する迅速かつ適切な対応が求められています。すなわち、パワハラ防止法の観点からも、相談窓口の設置が求められています。

社内に適切な通報・窓口を設置することで、退職後に問題が大きくなる前に、社内在籍中に相談を促し、適切に問題を処理するべきです。

4-3.退職時の適切な手続きと文書化

在籍中に問題を認知し、従業員と交渉のうえ、一定の解決金を支払って問題解決に至った場合、精算条項付きの合意書の取り交わしをしておくべきです。

明確な文書がないままにしておくと、退職後に再度の請求がなされるリスクを残すことになります。問題が収束した場合には、何らかの文書に残しておくべきです。

5.弁護士への相談の重要性

退職後の損害賠償は、本人名義で求めてくることもあれば、弁護士から内容証明が届くなどして、請求されることもあります。任意交渉で決着する場合もあれば、労働審判、訴訟提起など、法的手続に移行することもあります。従業員が退職したからといって、問題を放置していれば、会社の負うリスクはより大きくなるので、注意が必要です。

会社としては、問題が大きくなる前に、早期にリスクの有無を把握し、問題解決を図るべきです。在籍中に問題を把握した場合には、早期に弁護士に相談し、会社が負うリスクの有無、今後の対応方針について、相談をするべきでしょう。

仮に退職後に従業員から損害賠償されるに至った場合にも、放置せず、早期に弁護士に相談することをおすすめいたします。

6.当事務所のサポート

当事務所では、多くの顧問先企業から、社内で発生したハラスメント問題、問題社員対応(解雇要件の充足の有無や、解雇手続に関する相談を含む)、労災対応に関するご相談を多くお受けしております。

早期に問題を解決し、会社のリスクを最小化するよう、アドバイスさせていただくことが可能です。お気軽に当事務所までお問合せください。

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Last Updated on 2025年2月26日 by loi_wp_admin


この記事の執筆者:弁護士法人ロア・ユナイテッド法律事務所
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