早出残業の残業代は支払う必要がある?企業側の弁護士が解説

文責:福井 大地

「始業時刻より1時間以上前に出社している社員がいるが、その時間も労働時間に該当するのか」、「退職した元従業員から、早出残業分を含めて過去3年分の残業代を請求する書面が届いた」、「タイムカードの打刻時刻と実際の始業時刻に大きなズレがあるが、どこまでが残業代の支払対象となるのか」

当事務所には、こうした早出残業に関するご相談が寄せられています。

終業時刻後のいわゆる居残残業と異なり、早出残業は、通勤事情から余裕をもって早めに出社する場合や、自宅で過ごすことが少なく早く職場に到着している場合など、必ずしも業務上の必要性があるとはいえないケースも少なくありません。もっとも、対応を誤ると、会社が想定していなかった早出残業分の割増賃金が高額にのぼり、付加金や遅延損害金まで含めると、会社にとって極めて大きな負担となるリスクがあります。

本稿では、企業側の立場から、早出残業が労働時間に該当するか否かの判断基準、支払不要と判断されるケース、計算上の注意点、未然防止策、そして弁護士に相談すべき理由について、裁判例を踏まえて解説します。

1 勝手に早く来ても残業代は必要?「早出残業」の法的定義

(1)労働基準法における労働時間の判断基準

残業代の支払対象となる「労働時間」とは、労働基準法上の労働時間を指します。判例(大星ビル管理事件・最判平14・2・28民集56巻2号361頁)は、労働時間を「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」と定義し、労働時間に該当するか否かは、「使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができるか否かにより客観的に定まる」としています。

また、三菱重工業長崎造船所事件・最判平12・3・9民集54巻3号801頁は、「労働時間に該当するか否かは、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないと解するのが相当である」と判示しています。

つまり、就業規則上「始業時刻は午前9時」と定められていても、それ以前に出社している時間が一律に労働時間から除外されるわけではなく、客観的に使用者の指揮命令下にあったといえるかどうかで判断されます。この理は、所定労働時間後に残業を行う場合のみならず、所定労働時間前に出勤して残業を行う早出残業の場合にも同様に当てはまります。

(2)黙示の指示(黙示の指揮命令)とは

所定労働時間外の時間が労働時間に該当するためには、使用者の明示又は黙示の指揮命令下にあることが必要です。明示の業務命令がなくとも、使用者が業務遂行を黙認していたといえる場合には「黙示の指揮命令」があったと評価され、早出残業の時間も労働時間として扱われることになります。

裁判例上、①使用者が早出残業の事実を把握していたにもかかわらず異議を述べていなかった、②労働者の業務量が所定労働時間内に処理できないほど多く、時間外労働が常態化していた、といった事情がある場合には、黙示の指揮命令が肯定されやすい傾向にあります。

(3)始業前の「着替え」「清掃」「朝礼」は労働時間に含まれるのか

始業時刻前に行われる業務関連行為のうち、どこまでが労働時間に含まれるかは、行為の性質によって判断されます。

前掲の三菱重工業長崎造船所事件は、所定の作業服等の装着が義務付けられており、それを事業所内で行うものとされていた事案で、当該装着等に要した時間を労働時間と認めています。同様に、参加が強制されている朝礼や、業務遂行のために事実上不可欠な準備行為(金庫の開扉、機械の立ち上げ等)も労働時間に含まれ得ます。

他方、就業可能な状態を整えるための個人的な準備(自宅から着用してきた制服を整える、私物のロッカーへの収納、軽い挨拶程度の集まり等)は、労働時間に該当しないと判断される傾向にあります。早出残業の主張がなされた際には、当該時間に実際に何を行っていたかを具体的に検討する必要があります。

2 早出残業代の支払いが不要と判断されるケース

(1)従業員の完全な自由意志による自主的な勉強や早着

業務上の必要性がなく、労働者の個人的事情によって早く出社しているにすぎない場合、早出残業は労働時間に該当しないと判断されます。

八重椿本舗事件・東京地判平25・12・25労判1088号11頁は、「終業時刻後のいわゆる居残残業と異なり、始業時刻前の出社(早出出勤)については、通勤時の交通事情等から遅刻しないように早めに出社する場合や、生活パターン等から早く起床し、自宅ではやることがないために早く出社する場合などの労働者側の事情により、特に業務上の必要性がないにもかかわらず早出出勤することも一般的にまま見られるところであることから、早出出勤については、業務上の必要性があったのかについて具体的に検討されるべきである」と判示しています。そのうえで、被告の始業時刻は8時30分であるところ、原告は常にそれよりも1時間も早く出社していたが、1時間も早く職場に来る必要性があったと認めるに足りる証拠はないとして、早出残業を労働時間に該当しないとしました。

同旨の判断として、三好屋事件・東京地判昭63・5・27労判519号59頁は、「就業開始前の出勤時刻については余裕をもって出勤することで始業後直ちに就業できるように考えた任意のものであったと推認するのが相当である」と判示しています。

(2)会社が明確に早出を禁止し、かつ業務の必要性がない場合

会社が早出残業を明確に禁止し、その指示が徹底されている場合には、労働時間性が否定されやすくなります。神代学園ミューズ音楽院事件・東京高判平17・3・30労判905号72頁は、使用者から36協定の締結がなされるまで残業を禁止する業務命令が繰り返し発せられ、上司にも引き継ぎを命じてこの命令を徹底していた事案について、「使用者の明示の残業禁止の業務命令に反して、労働者が時間外又は深夜にわたり業務を行ったとしても、これを賃金算定の対象となる労働時間と解することはできない」と判示しました。

ただし、この裁判例は、使用者が繰り返し残業禁止命令を発していたという実態が認定できたからこそ、労働時間に該当しないと認定されたものであり、就業規則に残業許可制の定めがあるだけでは足りません。

(3)職務と無関係な私用のための滞在

タイムカード打刻後に食堂で雑談をしていた、私的なメールやインターネットの閲覧をしていた、自己研鑽のために業務と関係のない書籍を読んでいた、といった早出残業の主張がなされても、それは職務に従事していたとはいえず、労働時間には該当しません。前掲の八重椿本舗事件でも、原告自身が「タイムカード打刻後、食堂でいろいろ話をすることがあった」「常時やらなければならない仕事があったわけでもない」と述べていた事実が、労働時間性を否定する一つの要素となっています。

3 早出残業代の計算方法と会社が注意すべきポイント

(1)始業時刻までの時間計算と割増率の適用ルール

早出残業が労働時間に該当する場合、その算定方法は終業後の残業と基本的に同じです。1日8時間又は1週40時間の法定労働時間を超える部分については、25%以上の割増賃金(労基法37条)の支払が必要となります。

また、午後10時から午前5時までの時間帯に早出残業が行われた場合には、深夜割増(25%以上)が加算されます。実務上、早朝4時、5時台から出社しているケースでは、深夜割増の取扱いを失念し、後の請求で過大な追加負担が発生することもあるため注意が必要です。

(2)1分単位での計算義務と端数処理の落とし穴

労働時間は1分単位で把握し、賃金もこれに対応して計算するのが原則です。「早出残業は15分単位で切り捨てる」「30分未満は労働時間としない」といった運用は、労基法24条(賃金全額払の原則)違反となるおそれがあり、後の請求の場面で大きな差額が発生する原因となります。

なお、1か月の時間外労働を合計した上で30分未満を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げるという端数処理は、行政解釈上、事務簡便を目的としたものとして認められていますが、これも日々の労働時間の切り捨てとは異なるため、運用には専門的な検討が必要です。

(3)変形労働時間制やフレックスタイム制における早出の扱い

1か月単位の変形労働時間制やフレックスタイム制を採用している場合、「始業時刻より早く来た=即時に早出残業」とはなりません。フレックスタイム制ではコアタイム外の出社は労働者の裁量によりますし、変形労働時間制では日々・週ごとの所定労働時間との関係で割増賃金の発生範囲が決まります。

ただし、これらの制度を採用していても、清算期間における総労働時間(フレックス)や各日の所定労働時間を超える部分については、割増賃金の支払義務が発生します。制度設計と運用が労基法の要件を満たしていない場合、制度自体が無効と評価され、通常の労働時間制を前提とした早出残業代の請求を受けるリスクもあります。

4 企業が取り組むべき早出残業トラブルの未然防止策

(1)就業規則での残業許可制の徹底と運用の実態化

早出残業を含む時間外労働について事前許可制を採用することは、未然防止策の基本です。もっとも、ピーエムコンサルタント事件・大阪地判平17・10・6労判907号5頁は、会社が早出残業を把握していたにもかかわらず異議を述べず、上司も止めることがなかった事案で、「残業が個々の従業員の裁量で行われているために、被告が時間外勤務手当の支払義務を負わないということはできない」と判示しています。

また、昭和観光事件・大阪地判平18・10・6労判930号43頁は、就業規則に所属長の事前承認制の規定がある場合でも、「事前の承認が行われていないときには時間外手当の請求権が失われる旨を意味する規定であるとは解されない」として、規定の存在のみでは黙示の指揮命令下にないという認定にはならないことを明らかにしています。

つまり、規定を設けるだけでは足りず、①事前承認の運用実態を整備すること、②早出残業を発見した際には上長が注意・指導や残業禁止命令を発し、その記録(書面・メール・社内チャット等)を残すこと、③過去に事前承認を取得していた書式が現実に運用されていたことの証拠を残すことが重要です。

(2)勤怠管理システムによるログと実働の乖離チェック

タイムカードや勤怠管理システム上の打刻時刻は、あくまでも社内における滞留時間を示すものにすぎず、必ずしも労働時間そのものを示すわけではありません。もっとも、訴訟・労働審判の場面では、タイムカードの打刻時刻が労働時間の有力な推認材料となるため、打刻時刻と実働時間との乖離が大きい場合には、その乖離の合理的説明ができるよう、PCのログイン・ログオフ記録、入退館記録、業務日報等を整備しておく必要があります。

特に、早出残業については、出社してから始業時刻までの時間に労働者が実際に何をしていたかが争点となるため、業務指示の有無や業務量を客観的に示す資料の保管が重要です。

(3)早期出社を常態化させないための業務フローの見直し

早出残業が常態化している場合、業務量が所定労働時間内に処理できないほど多いとして、黙示の指揮命令下にあったと認定されるリスクが高まります(佐々木宗啓ほか編著『類型別労働関係訴訟の実務〔改訂版〕Ⅰ』151頁参照)。

そのため、特定の従業員に業務が偏っていないか、業務フロー上、始業前に行わなければならない作業(例:開店準備、機械の立ち上げ、車両点検等)が存在していないかを定期的に点検し、必要に応じて始業時刻の繰上げ、業務分担の見直し、人員配置の変更を検討することが、根本的な未然防止策となります。

5 早出残業の問題を弁護士に相談すべき理由

(1)過去の裁判例に基づき労働時間の境界線を明確に判断

早出残業が労働時間に該当するか否かは、就業規則の定めだけでなく、業務指示の実態、業務量、会社の対応、労働者が実際に行っていた行為等の事情を総合的に考慮して判断されます。前述のとおり、京都銀行事件・大阪高判平13・6・28労判811号5頁のように業務運用の実態から早出残業を労働時間と認定した事例もあれば、八重椿本舗事件のように業務上の必要性がないとして労働時間性を否定した事例もあり、結論は事案ごとに大きく異なります。

弁護士に相談することで、自社の運用実態が、どの裁判例と類似し、どのような反論が法的に成り立つかを的確に判断することができます。

(2)従業員から過去数年分の早出代を請求された際の交渉代行

2020年4月の民法改正により、賃金請求権の消滅時効期間は2年から3年(当面の経過措置)に延長されました。退職した元従業員から、過去3年分の早出残業代を一括請求されると、付加金や遅延損害金(在職中は年3%、退職後は年14.6%)も含めて多額の支払を余儀なくされる可能性があります。

弁護士が代理人として交渉に当たることで、労働時間該当性に関する法的な反論、消滅時効の援用、合理的な範囲での早期解決を図ることが可能となります。

(3)労基署から指摘を受ける前に、適正な労務管理体制を構築できる

労働基準監督署の臨検をきっかけに、複数の従業員から早出残業代を含む未払賃金請求が連鎖的に発生するケースは少なくありません。さらに、敗訴例がSNS等で拡散すれば、企業ブランドの毀損、採用力の低下、取引先からの信用低下等の二次的損害も生じ得ます。

労基署からの指摘を受ける前に、就業規則・36協定・勤怠管理ルールを整備し、早出残業を含む労働時間管理体制を構築しておくことが、最大のリスク回避策です。

6 当事務所のサポート内容

当事務所は、創設以来42年以上にわたり労務問題を積極的に取り扱っており、上場企業から中小企業に至るまで、また様々な業種の企業に対し、多数の顧問サービスを提供しております。早出残業を含む残業代請求に関しても、多数のご相談・解決実績を有しております。

具体的には、以下のサポートをご提供しております。

・平時の予防法務:就業規則・賃金規程・36協定の整備、残業事前許可制・残業禁止命令の運用設計、勤怠管理システム導入時の法的チェック、管理職向けの労務管理研修の実施
・個別請求対応:在職中・退職した従業員からの早出残業代を含む未払賃金請求に対する反論書面の作成、和解交渉、労働審判・訴訟対応
・集団的請求への対応:複数の従業員から同種請求がなされた場合の統一的対応方針の策定、グループ顧問先に対する横断的サポート
・労基署対応:是正勧告・指導票への対応書面の作成、立入調査への同行、再発防止策の策定支援

早出残業は、「勝手に早く来ているだけだから払う必要はない」と安易に処理してしまうと、後に多額の追加負担を招くリスクがある一方で、形式的にすべて支払うことが必ずしも正解ともいえない、判断の難しい分野です。労働契約や就業規則の内容のみならず、使用者の残業に関する運用の実態、労働者の業務量等の実態から判断されることになるため、実態を丁寧に把握したうえで主張を行う必要があります。

早出残業に関するご相談、未払残業代請求への対応、就業規則の見直し等でお困りの際は、お気軽に当事務所にご相談ください。

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Last Updated on 2026年6月5日 by loi_wp_admin


この記事の執筆者:弁護士法人ロア・ユナイテッド法律事務所
当事務所では、「依頼者志向の理念」の下に、所員が一体となって「最良の法律サービス」をより早く、より経済的に、かつどこよりも感じ良く親切に提供することを目標に日々行動しております。「基本的人権(Liberty)の擁護、社会正義の実現という弁護士の基本的責務を忘れず、これを含む弁護士としての依頼者の正当な利益の迅速・適正かつ親切な実現という職責を遂行し(Operation)、その前提としての知性と新たな情報(Intelligence)を求める不断の努力を怠らず、LOIの基本理念である依頼者志向を追求する」 以上の理念の下、それを組織として、ご提供する事を肝に命じて、皆様の法律業務パートナーとして努めて行きたいと考えております。現在法曹界にも大きな変化が起こっておりますが、変化に負けない体制を作り、皆様のお役に立っていきたいと念じております。