退職勧奨対応における弁護士への相談・同席のメリットとは?

文責:織田 康嗣

1 退職勧奨とは

退職勧奨とは、従業員に対し、合意退職または辞職を勧める使用者の行為をいいます。雇用契約を一方的に解消する場合には、解雇や雇止めを行う場合がありますが、これらには、解雇権濫用法理(労契法16条)や雇止め法理(労契法19条)の適用があり、ハードルが低くありません。

これに対し、退職勧奨は、あくまで合意退職や辞職を「勧める」行為に過ぎませんから、労働者の自由な意思を尊重して行われる限りで、自由に行うことができます。また、そのタイミングについても、法的に何か制限があるわけではありません。

実務上も、直ちに解雇を行わずに、退職勧奨によって合意退職を目指すケースが良く見られます。合意退職であれば、後々争われるリスクが低くなることが背景にあります。

2 退職勧奨を自社で行う注意点・リスク

上記のとおり、退職勧奨を行うこと自体が直ちに違法ではないものの、無制限に行うことができるものではありません。次のような点に注意する必要があります。

(1)退職勧奨が不法行為となる場合

従業員が退職に応じない意思を明確にしているにもかかわらず、執拗に退職勧奨を繰り返した場合、もしくは退職強要に該当するような場合には、退職勧奨が不法行為に該当して、損害賠償責任が発生することがあります。

退職勧奨が違法となるかの判断基準については、下記裁判例の判示が参考になります。

〇日本IBM(退職勧奨)事件(東京地判平成23・12・28労経速2133号3頁)

退職勧奨は、勧奨対象となった労働者の自発的な退職意思の形成を働きかけるための説得活動であるが、これに応じるか否かは対象とされた労働者の自由な意思に委ねられるべきものである。したがって、使用者は、退職勧奨に際して、当該労働者に対してする説得活動について、そのための手段・方法が社会通念上相当と認められる範囲を逸脱しない限り、使用者による正当な業務行為としてこれを行い得るものと解するのが相当であり、労働者の自発的な退職意思を形成する本来の目的実現のために社会通念上相当と認められる限度を超えて、当該労働者に対して不当な心理的圧力を加えたり、又は、その名誉感情を不当に害するような言辞を用いたりすることによって、その自由な退職意思の形成を妨げるに足りる不当な行為ないし言動をすることは許されず、そのようなことがされた退職勧奨行為は、もはや、その限度を超えた違法なものとして不法行為を構成することとなる。

さらに同事件では、退職勧奨の対象者が消極的な意思を示した後の対応について、以下のように述べています。

退職勧奨の対象となった社員がこれに消極的な意思を表明した場合であっても、直ちに、退職勧奨のための説明ないし説得活動を終了しなければならないものではなく、当該社員に対して、被告に在籍し続けた場合におけるデメリット・・・、退職した場合におけるメリット・・・について、更に具体的かつ丁寧に説明又は説得活動をし、また、真摯に検討してもらえたのかどうかのやり取りや意向聴取をし、退職勧奨に応ずるか否かにつき再検討を求めたり、翻意を促したりすることは、社会通念上相当と認められる範囲を逸脱した態様でなされたものでない限り、当然に許容される。

このように、退職勧奨を行い、対象者が消極的であったとしても、「社会通念上相当と認められる範囲を逸脱しない限り」であれば、説得を続けることは可能ですが、不当な心理的圧迫を加えたり、名誉感情を不当に害する言辞を用いたりすることは許されません。

近時の裁判例でも、退職勧奨の対象となった従業員が明確に退職を拒否した後も、複数回にわたり執拗に行われただけでなく、確たる裏付けもなく、他部署による受入れの可能性が低いことや、希望業務に従事するためには他の従業員のポジションを奪う必要があるなどと伝え、困惑させる発言をしたこと、また、さらには業務水準が劣る旨を執拗に繰り返し、能力がないのに高額の賃金を得ているなどと、自尊心を傷付ける言動にも及んだとして、不法行為が成立すると判断した事例があります(日立製作所(退職勧奨)事件・横浜地判令和2・3・24判時2481号75頁)。

(2)退職合意が無効となる場合

退職勧奨によって、従業員が退職に合意したとしても、錯誤や脅迫があった場合には、合意が無効となる場合があります。

例えば、客観的にみて、懲戒解雇できない状況であったにもかかわらず、退職に応じなければ、確実に解雇されると誤信させるような場合には、錯誤が認められる可能性が高まります。

3 退職勧奨につき、弁護士に相談または弁護士が同席するメリット

弁護士に退職勧奨の同席や、一連のサポートの依頼をするメリットとして、次のようなものがあります。

(1)法的リスクを軽減できる

上述のとおり、退職勧奨の方法は無制限ではなく、その方法によっては、不法行為となる場合があります。また、従業員が退職に合意さえすれば問題がないということではなく、錯誤や脅迫など、退職の意思表示に瑕疵がないようにしなければなりません。

使ってはならない言葉を確認したり、どれくらいの頻度・回数を行うべきか、話をどのように構成して退職を促すかなど、違法とならない退職勧奨の方法を相談することができます。

(2)退職合意が得やすくなる場合がある

会社と従業員との間で、感情的な対立が大きくなってしまっている場合もあるかと思います。

そうした場合に、会社の担当者だけではなく、弁護士が同席し、弁護士から説得を行うことで、従業員も冷静に話を聞くことが出来る場合もあるかもしれません。あくまで弁護士は、会社側の依頼を受けた立場ではありますが、法的見地から客観的に話をすることで、従業員が納得する場合もあるでしょう。

(3)合理的な退職条件を設定できる

退職勧奨の際には、単に会社から退職することを求めるだけでなく、退職に応じるインセンティブ(例えば、上乗せ退職金や再就職支援等)を与えることも少なくありません。

どのような退職条件を提示すべきかは、ケースバイケースの判断が求められますが、そうした点も弁護士に相談することができます。

(4)合意書等のリーガルチェックを受けられる

退職勧奨により、退職合意が成立した場合、退職合意書を作成することが多いです。

退職条件とした内容が適切に盛り込まれているか、会社にリスクが残る内容になっていないかなど、弁護士にリーガルチェックを求めることができます。 

4 退職勧奨について弁護士に相談すべき事例

退職勧奨は、問題社員に対して行われたり、人員整理の場面で行われるなど、様々な場面で行われます。

弁護士に相談すべき事例としては、例えば、以下のような場合が挙げられます。

(1)交渉の難航が予想される事案

従業員の反応などから、退職勧奨による交渉の難航が予想される場合には、入念な準備が必要です。退職勧奨は、適切なプロセスを経て、適切な時期に行わなければ、従業員がこれに応じないことも少なくありません。

難事案においては、従業員が退職勧奨を納得して受け入れるようにするべく、どのようなプロセス、話を構成するかなど、弁護士に相談するべきです。

(2)従業員側も弁護士に相談している事案

退職条件を巡って、従業員側も弁護士に相談したり、弁護士を代理人に立てて、交渉を行う場合があります。

こうしたケースでは、会社側も弁護士に相談するか、弁護士を代理人とするなどして、法的交渉を行っていく必要があります。

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5 退職勧奨以外の選択肢について

従業員が退職勧奨に応じない場合には、雇用契約を終了するためには、解雇や雇止めを行う必要があります。

ただし、冒頭にも記載したとおり、これらには、解雇権濫用法理(労契法16条)や雇止め法理(労契法19条)の適用があり、ハードルが低くありません。

仮に、無効な解雇や雇止めを強行した結果、従業員側から裁判を起こされ、会社が敗訴してしまった場合、従業員としての地位確認がなされるほか、バックペイ(解雇後、和解や判決時までの賃金)の支払いを求められます。無効な解雇を強行した場合の会社のリスクは大きなものになりますので、事前に弁護士への相談が必要です。

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6 退職勧奨について当事務所がサポートできること

当事務所では、退職勧奨にまつわる多数の相談実績がございます。当事務所では、以下のようなサポートが可能です。

・退職勧奨に関する一般的な相談

・退職勧奨の面談同席、従業員との交渉

・退職勧奨に至るまでの事前準備のサポート(例:問題社員対応としての注意指導の方法、記録化の方法のサポート)

・退職合意書の作成、リーガルチェック 等

退職勧奨は、問題社員対応や人員整理の一環として検討されることも少なくありません。退職勧奨そのものだけでなく、その背景にある問題社員対応や、人員整理に関するご相談もお受けしております。

是非、当事務所までお気軽にご相談ください。

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Last Updated on 2024年12月9日 by loi_wp_admin


この記事の執筆者:弁護士法人ロア・ユナイテッド法律事務所
当事務所では、「依頼者志向の理念」の下に、所員が一体となって「最良の法律サービス」をより早く、より経済的に、かつどこよりも感じ良く親切に提供することを目標に日々行動しております。「基本的人権(Liberty)の擁護、社会正義の実現という弁護士の基本的責務を忘れず、これを含む弁護士としての依頼者の正当な利益の迅速・適正かつ親切な実現という職責を遂行し(Operation)、その前提としての知性と新たな情報(Intelligence)を求める不断の努力を怠らず、LOIの基本理念である依頼者志向を追求する」 以上の理念の下、それを組織として、ご提供する事を肝に命じて、皆様の法律業務パートナーとして努めて行きたいと考えております。現在法曹界にも大きな変化が起こっておりますが、変化に負けない体制を作り、皆様のお役に立っていきたいと念じております。