従業員が退職代行を利用してきたらどう対応する?企業側の対処法と弁護士に相談すべきタイミング

文責:岩野 高明 

 従業員が自ら会社に対して退職を願い出るのではなく、退職代行を利用する例が増えています。自ら願い出る勇気が出ない、会社が退職を認めてくれそうにない、引き留められたりすると困るなどの動機があるようです。

 本人以外の者から突然退職の意思を通告された場合、戸惑う会社も少なくないのではないかと思われますが、的確な対応をしさえすれば、大きな問題に発展することはありません。退職代行への対処方法を見ていきます。

1 退職代行の法的性質(使者と代理人の違い)

 退職代行の法的性質は、「使者」と位置付けられます。「使者」とは、本人の意思を単に伝達するだけの立場の者であり、それ以上の権限を有していません。すなわち、使者である退職代行者には自ら意思決定する自由はありませんし、退職代行者が会社との間で退職の条件等について交渉することも想定されていません。

 これに対し、「代理人」は、本人に代わって意思決定をし、その意思表示の効果は本人に帰属します。弁護士は代理人になることが多いのですが、代理人である弁護士は、会社に対して本人の退職意思を伝えるだけでなく、会社との間で退職の条件等について交渉することもできます。代理人が会社との間で合意した権利や義務は、本人に帰属します。

2 退職代行による退職を法律的に考察すると

 法律的に考察すれば、退職代行による退職も、通常の退職と同様、会社と労働者との間の「合意による労働契約の解消」です。合意が成立するためには、労働者から会社に対して退職の申入れをし、これに対して会社が退職を承諾するというプロセスが必要です。申入れの意思表示が会社に到達し、承諾の意思表示が労働者に到達しなければ、労働契約の解消という法律効果は発生しません。

 退職代行を利用する場合には、退職代行者を使者として、労働者が会社に対して退職の申入れをし、これに対して会社が退職代行者に承諾の意思表示をし、退職代行者が労働者本人に対して会社の承諾を伝達した段階で、合意が成立したことになります。

 ただし、雇用契約に期間の定めがない場合(正社員)は、労働者は会社に対し、いつでも解約の申入れをすることができるとされており、会社の承諾がなくても、申入れから2週間後に雇用契約が終了します(民法第627条1項)。仮に会社の就業規則で「退職の申入れは1か月前までにしなければならない」とされていても、上記の民法の規定が優先します。したがって、退職代行者から通知された退職の意思が本人のものである限り、会社は従業員の退職を妨げることはできませんし、退職日を不当に引き延ばすこともできません。

 会社が懸念するのは、退職代行者が通知してきた退職意思が、実は本人の意思と合致していなかったという事態です。退職代行者が本人の意思を正確に把握していない場合(コミュニケーション不足)や、退職代行者が直接本人に退職意思を確認したのでない場合(家族から代行を依頼された場合など)には、会社が承諾しても、退職の効果が発生しないことがあり得ます。

3 退職代行者の権限

⑴ 退職代行サービス事業者

 退職代行サービス事業者は、「使者」の立場でのみ活動が許されています。なぜなら、弁護士または弁護士法人でない者が、報酬を得て退職の条件等について会社と交渉することは、弁護士法(第72条)で禁止されているからです。弁護士資格を持たない事業者が、単なる本人の退職意思の伝達を超え、退職条件等について会社と交渉をすると、上記の法律違反で処罰されてしまいます。退職日に関する交渉さえ、上記の法律で禁止されている法律事務であると解されます。

 というわけで、退職代行サービス事業者は、単に本人の退職意思を会社に伝えることのみが活動範囲ですので、利用料金も比較的安く(数万円程度)設定されているようです。もしも弁護士資格のない退職代行サービス事業者が退職の条件等について協議を申し入れてきた場合には、協議を拒否し、本人もしくは(弁護士資格を有する)代理人との間での協議を申し出るのがよいでしょう。

⑵ 合同労組(個人加盟の労働組合・ユニオン)

 合同労組(個人加盟の労働組合・ユニオン)の多くは、「労働者であれば、勤務先にかかわらず誰でも加入できる」と謳っています。従業員が合同労組に加入し、合同労組が退職代行をしてくることもあります。合同労組を含む労働組合は、団体交渉権を有していることから、所属する組合員の使用者との間で組合員の労働条件について交渉することができます。退職時の退職条件等も、団体交渉事項に含まれますので、本人の退職意思の伝達だけでなく、合同労組から退職にかかる条件等について交渉を申し入れられた場合には、会社は合同労組との交渉に応じる義務を負います。

 退職に伴う事務的な事柄だけでなく、合同労組から未払割増賃金やハラスメント被害の慰謝料等を請求された場合には、弁護士に相談することをお勧めします。

⑶ 弁護士

 弁護士が「使者」としてのみ退職代行を引き受け、会社に対して本人の退職意思を通告してくることはあまりないと思われます。それよりは、弁護士が「代理人」として、退職の条件やその他の事項について交渉を持ちかけてくる場合のほうが圧倒的に多いでしょう。例えば、未払の割増賃金の請求や、ハラスメント被害を理由とする損害賠償請求、退職が自己都合なのか会社都合なのかの問題などです。

4 退職代行を通じて本人の退職意思が通知されたらどうする?

 会ったこともない退職代行者から退職意思の通知を受けた場合には、「退職するというのは本当に本人の意思なのか?」という疑問が湧くところでしょう。直接この点を本人に質してみたくなります。会社が本人に連絡することを退職代行者が認めるのであれば、直接本人の意向を確認すべきですが、退職代行を利用するくらいなので、拒否される場合が多いでしょう。この場合、無理に本人との連絡や面談を求めるべきではありません。

 その代わりに、退職代行者に対し、退職意思が本人のものであることを証明するよう求めるべきです。具体的には、退職代行者を通じて、本人の署名のある退職願や退職届を会社に提出するよう要求するのです。退職願や退職届に会社所定の用紙がある場合には、これを退職代行者に交付するのがよいでしょう。間違いなく本人が退職意思を表明していると確認したいのであれば、退職願に実印を押印してもらい、印鑑証明書を添付してもらうという方法もありますが、代行者が難色を示す場合には、そこまで求めないという判断もあり得るでしょう。代行者が退職願の取次も拒否するような場合には困ってしまいますが、その場合には、最低限、代行者とのやりとりの記録を残しておくべきです。一連のやり取りは、あとで証拠になるよう手紙や電子メールなどの文書で行うことが望ましいです。面倒なことになりそうな予感がしますので、弁護士に相談してもよいかもしれません。

5 退職後の手続

 従業員の退職に当たっては、離職証明書(離職票)を含む社会保険関係の処理や、貸与物の返還、退職金の手続、社宅からの退去など、事務的なやりとりが必要になります。退職代行サービス事業者に対し、これらの事項の手続を(文書などで)本人に伝えてもらうことは法的に問題ないと解されますが、単なる伝達にとどまらず、これらの事項について本人との間で交渉が必要になった場合には、退職代行サービス事業者を交渉相手とするのは適切ではありません。同事業者から本人に対し、これらの事項について自ら会社とやり取りするか、もしくは権限のある代理人を選任するかを選択するよう伝えてもらうのがよいでしょう。本人が自ら手続を行わず、代理人をも選任しない場合には、弁護士に相談してみるのも選択肢です。

6 当事務所がサポートできること

 従業員が退職代行を利用してきた場合、従業員の目的が単に退職したいだけであれば、上記の手順で対応する限り、紛争化を避けつつ事態を収拾することは、それほど難しいことではないでしょう。弁護士の出番は必要ないかもしれません。これに対し、◆「使者」であるはずの退職代行サービス事業者が、本来の権限を越えて退職の条件等について交渉を求めてきた場合や、◆退職代行者が合同労組である場合、◆弁護士が、退職代行者として、退職意思の伝達にとどまらず他の要求をしてきたような場合には、会社側としても、弁護士に相談する必要が出てくるでしょう。

 当事務所は、退職代行の問題にも迅速に対応いたします。お困りの際はぜひご相談ください。

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Last Updated on 2026年4月6日 by loi_wp_admin


この記事の執筆者:弁護士法人ロア・ユナイテッド法律事務所
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