
文責:木原 康雄
本記事では、従業員の懲戒解雇を有効に行うために必要な就業規則(懲戒規程)の定めや、手続きについて解説します。就業規則(懲戒規程)に不備がある場合や、手続き・要件を欠いた解雇は「不当解雇」と判断され、解雇時以降の未払い賃金(バックペイ)の支払義務などの大きなリスクを伴うため、懲戒解雇を行う前に弁護士へ相談することが重要になります。
1 はじめに
重大な規律違反・非違行為を行った従業員に対しては、これ以上雇用を継続できないとして、懲戒解雇を検討せざるを得ない場面があります。
しかし、懲戒解雇が有効と判断されるためのハードルは高く、会社が「当然解雇できる」と考えていたとしても、裁判所が解雇は無効であると判断した事例も少なくありません。
懲戒解雇が無効とされた場合、会社は、従業員を復職させるだけでなく、解雇期間中の未払い賃金(バックペイ)の支払い義務も負うことになります。
以下、有効な解雇を行うための要件や手順、注意点について見ていきます。
2 就業規則に規定がないと懲戒解雇はできない
(1)懲戒解雇を行うための大原則
まず、懲戒解雇を有効に行うには、懲戒事由と解雇等の懲戒処分の種類が就業規則や懲戒規程にあらかじめ定められている必要があります。「制裁の定め」は就業規則の記載事項であり(労働基準法89条9号)、規定されていない限り、懲戒処分はできないというのが最高裁判例の考え方です。
また、その就業規則(懲戒規程)は、従業員に周知されていなければなりません(労働基準法106条1項、労働契約法7条)。
問題が発覚した後に、慌てて懲戒規程を作成し、過去の行為に遡って適用することは認められませんので、問題が生じる前に確認しておきましょう。
(2)普通解雇と懲戒解雇の違い
なお、懲戒解雇が有効とされるハードル(労働契約法15条)は、従業員の能力不足、適格性の欠如、傷病による就労不能等の場合になされる普通解雇(労働契約法16条)よりも高いものとされています。
懲戒解雇は、企業秩序違反に対する制裁であり、従業員には不名誉になりますし(再就職時に不利に働くおそれもあります)、退職金規程の規定次第では、退職金の全部または一部不支給を伴うなど不利益も大きくなります。
そこで、懲戒解雇の場合、普通解雇に比べて、より一層厳しい手続きと合理性が求められているのです。
3 就業規則に基づき有効な解雇を行うための要件
(1)客観的に合理的な理由があること
周知された就業規則(懲戒規程)に、懲戒事由と懲戒処分の種類として懲戒解雇が定められていたとしても、それだけで直ちに懲戒解雇が有効となるわけではありません。
労働契約法15条は、「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」と定めています。
すなわち、客観的合理的理由及び社会的相当性の両方を充たしている必要があります。
まず、客観的合理的理由についていえば、「上司との相性が悪い」、「態度が気に入らない」といった主観的な感情や曖昧な評価は、当然これにあたりません。
これは、経歴詐称や、金銭問題、無断欠勤、業務命令違反などといった企業秩序違反行為が、客観的な事実として証明可能であり、かつ、その行為が就業規則(懲戒規程)のどの懲戒事由に該当するのかが明確に紐づいていなければならないということを意味します。
(2)社会通念上相当であること
企業秩序違反行為が客観的な事実として証明可能であったとしても、それに対する処分として懲戒解雇が「重すぎる」場合は、社会通念上相当とは認められず(社会的相当性を欠くものとして)、無効とされます。
「重すぎる」かどうかは、企業秩序違反行為の悪質性や、会社等に与えた損害の大きさ、行為態様(動機・目的、手段・方法、頻度など)、処分対象者のそれまでの勤務状況、注意・指導・処分歴、反省の有無・程度、被害弁償の有無等を総合考慮して判断されます。
たとえば、一回の遅刻や軽微な業務上のミスの場合、行為の悪質性は高くなく、会社に損害も生じていませんので、懲戒解雇処分は「重すぎる」(社会的相当性を欠く)ということになるでしょう。
これに対し、たとえば、私的遊興費に充てるため1億円を横領したといった場合や、業務上の問題行動を継続しており、これに対し会社が注意・指導を繰り返し、軽い懲戒処分を行ったにもかかわらず、対象者がなおも問題行動をエスカレートさせながら継続しているような場合には、行為の悪質性、損害の大きさ、処分歴があり、対象者に反省もないという要素から、懲戒解雇が「重すぎる」わけではない(社会的相当性を充たす)として、有効と判断される可能性が高い、ということになります。
4 懲戒解雇の手順と実務上の重要ポイント
(1)就業規則に定められた適正な手続きの遵守
相応の企業秩序違反行為があるかどうかだけでなく、処分に際して「適切な手続きを踏んでいること(適正手続き)」という手続面も問われることになります。
重大な企業秩序違反行為があったとしても、手続きを怠ると懲戒解雇は無効であると判断されるおそれが出てきます
たとえば、就業規則や労働協約において、懲戒処分や解雇を行う際の手続きが定められている場合(賞罰委員会・懲戒委員会の開催・諮問が義務づけられている場合や、労働組合との事前協議義務が労働協約に定められている場合など)は、その規定どおりの手続きを踏む必要があります。
(2)従業員本人への弁明の機会の付与
懲戒処分の内容を決定する前に、対象者に「弁明の機会」を与えなければなりません。
もし就業規則(懲戒規程)に弁明の機会についての明文規定がない場合であっても、懲戒解雇のような重い処分の場合には、適正手続きの観点から弁明の機会の付与が求められています。
弁明の機会を付与する具体的な手順の一例を挙げれば、以下のとおりです。
① 対象者に、対象となる企業秩序違反行為の具体的な内容、これに対し懲戒処分を検討していること、弁明を行うべき日時・場所等を事前に書面で通知します。
② 対象者から、口頭または書面(弁明書)で言い分を聞き取ります。
③ 面談を行った場合は議事録を作成し、本人の署名・押印をもらうか、録音データを保管しておきます。
対象者の弁明を聞いた結果、会社が把握していなかった事情や誤解が判明することもあります。誤った処分をしないためにも、このプロセスを丁寧に行うことが重要です。
(3)証拠収集と経緯の記録
なお、解雇された従業員から「不当解雇だ」として訴訟を提起された場合、解雇事由が存在することの立証責任が会社側にあります。
そこで、以下のような客観的証拠を日頃から蓄積・保存しておくことが不可欠です。
① 勤怠記録: タイムカードデータ、PCログ、着信履歴
② 指導の履歴: 業務指導書、注意書、改善指示書、メールの送信履歴
③ 本人の回答: 始末書、顛末書、改善計画書、面談時の議事録
④ 第三者の証言・調査資料: 被害報告書、顧客からのクレームメール、防犯カメラ映像、社内調査のヒアリングシート
問題行動を継続している従業員に対し、日常的に口頭で注意はしているのだけれども、どのような問題行動を行ったかという記録が残されておらず、また、注意も文書でなされていないという事案を、少なからず目にします。
これでは問題行動等の立証が困難で、したがって、現状では懲戒処分は難しいといわざるを得なくなります。適時に懲戒処分を行うためにも、日頃からの証拠収集が大切になります。
5 就業規則の不備が原因で「不当解雇」と言われないために
(1)解雇事由の記載が抽象的すぎるリスク
就業規則(懲戒規程)上の懲戒事由として、「著しく社員としての体面を汚したとき」といった抽象的・包括的なものしか規定されていない場合、実際の個別トラブルに対して懲戒解雇を適用することが難しくなるおそれがあります(前記の客観的合理的理由を欠くとされるリスクがあります)。
もちろん、あらゆる事態を網羅することは不可能ですから、最後の懲戒事由として「その他前各号に準ずる不適切な行為があったとき」などといった包括条項を定めておくこと自体は必要なことですが、典型的な企業秩序違反行為(たとえば、無断欠勤・遅刻・早退、経歴詐称、ハラスメント、横領・背任、会社財産の損壊、営業秘密の漏えいなど)については具体的に記載しておく必要があります。
(2)服務規程と懲戒事由の連動性が取れているか
就業規則上、企業秩序を維持するための服務規律として、遵守事項を定めている場合が多いかと思います(「~してはならない」、「~しなければならない」という服務上の約束事)。
この遵守事項と、「〇〇の遵守事項に違反した場合は〇〇の懲戒処分に処する」という懲戒事由が正しく連動しているかどうかもチェックしてください。
たとえば、遵守事項に「会社の承認を得ないで他の職業に従事してはならない」と規定されていても、懲戒事由の項目に「第○条(当該遵守事項の条項)に違反したとき」という連動条項や、「会社の承認を得ないで他の職業に従事したとき」という明文がなければ、懲戒事由がない、すなわち客観的合理的理由がないということになり、懲戒解雇は困難になってしまいます。
6 解雇トラブルを避けるために、解雇の実施前に弁護士へ相談を
(1)就業規則も含めた解雇の妥当性のチェック
懲戒解雇は、無効と判断されてしまうリスクが高い手続きといえます。
もし無効と判断された場合、企業イメージの失墜や他の従業員への悪影響など、多大な損失を被ることになります。
懲戒解雇を検討すべき事案が発生した場合には、まず労務に詳しい弁護士へ相談することをお勧めします。
弁護士は、就業規則の記載内容をチェックした上で、当該事案が「客観的合理的理由」と「社会的相当性」を充たしているか、また、裁判で事実を証明できるだけの証拠があるかどうかを客観的に判断します。
もし現在の事実・証拠では不足している場合には、懲戒解雇を行う前に、追加でどのような事実・証拠が必要かについて、具体的なアドバイスを行うことができます。
(2)バックペイ(未払い賃金)の支払リスクを防ぐ
懲戒解雇が無効と判断された場合、裁判が長引けば長引くほど会社側の金銭的負担は大きくなります。解雇以降の賃金(バックペイ)を遡って全額支払わなければならないからです。
事前のアドバイスにより、このような大きな経営リスクを未然に防ぐことが可能になります。
(3)貴社のケースが「勝てる解雇」かどうかを事前判定
また、懲戒解雇にはリスクがあるという場合、弁護士は、普通解雇に変更したり、解雇を避けて退職を勧奨するなどの別の方法をアドバイスすることもできます。
正式に懲戒解雇処分を行ってしまった後では、なし得ることの選択肢が狭まってしまいます。「この従業員の対応に困っている」、「解雇を検討したい」と思ったタイミングで、できるだけ早くご相談いただければと思います。
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Last Updated on 2026年8月7日 by loi_wp_admin



