従業員のメンタルヘルス対応を弁護士に依頼するメリットとは?対応の流れを解説!

 近年では、うつ病や適応障害等、メンタルヘルスの病気の社員への対応に頭を悩ませる企業が増加しています。
 当事務所にも、「うつ病で休職中の社員が休職期間の満了直前になって復職可能である旨の診断書を提出してきたが、復職を許可しなければならないのか」、「休職と復職を繰り返す社員を辞めさせたいがどうすればよいのか。」、「休職中の社員と連絡が取れない状況だがどうしたらよいか」など、メンタルヘルス不調社員への対応について、多くのご相談を受けております。

 

1 メンタルヘルス不調社員を巡る実情

 厚生労働省の調査によれば、平成29年時点で、うつ病、適応障害、統合失調症等のメンタルヘルス不調で病院を受診している人の総数は、約419万人にも及び、ここ15年間で約1.6倍も増加している計算になります。また、令和4年度におけるメンタルヘルス不調を原因とする労災申請件数は、2683件で、ここ20年間で約15倍と大幅に増えています。
 このような状況もあり、最近では、従業員のメンタルヘルス不調を抱えた社員を巡る問題に頭を悩ませる企業が増加しており、当事務所の顧問会社様からの労務相談でも、メンタルヘルス関連の相談は特に多いです。
 企業は、労働契約上社員の生命・身体の安全に配慮する義務(安全配慮義務)を負っているので、その前提として社員の健康状態をきちんと把握することが求められます。
 しかし、うつ病や適応障害といったメンタルヘルス不調は、他の疾患と比較して病気であるかの判断が難しく、また一度治癒しても再発する可能性が高いため、休職と復職を繰り返すといったことも多くみられます。
 また、メンタルヘルス不調に関しては、医師の見解が分かれることも多く、その原因や病状について把握することが特に難しいため、企業にとっては特に難しい舵取りを強いられることになるのです。
 他方、メンタルヘルス不調社員を抱えれば、企業は当該社員のパフォーマンスの低下や休職により労働力を失うだけではなく、その対応を誤ると、当該社員から損害賠償請求を受けたり、また最近ではSNSや転職サイトへの投稿等により社外からの評価が下がり、採用力が低下したり、取引先の減少により売上げが低下したりするなどのリスクも潜んでいます。
 企業は、このようなリスクを避けるためにも、メンタルヘルス不調を抱えた社員に対して適切に対応する必要があります。

2 メンタルヘルス不調社員への対応に関するよくあるご相談内容

⑴ メンタルヘルス不調社員の特徴及び初動対応

 メンタルヘルス不調社員に対応する企業がまず悩むポイントとしては、「問題行動をする社員がいるが、単なる素行不良なのかメンタルの病気によるものなのかが分からない」、「メンタルに問題を抱える社員を発見した場合、まず始めにどのように対応したらいいのか?」というものです。

 上記のとおり、メンタルヘルス不調社員を抱えることは、企業にとって様々なリスクが潜んでいるため、企業はメンタルヘルス不調社員に適切に対応することが求められます。そこで、まずは、社員のメンタルヘルス不調を見逃さないことが重要です。

 一般的に、メンタルヘルス不調を抱える社員の特徴としては、以下が挙げられます。

 ・欠勤、遅刻、早退が多いなどの勤怠の乱れ。
 ・集中力や判断力の低下、作業に時間がかかる。
 ・業務上のケアレスミスが増える。
 ・不平・不満、愚痴、泣き言などが多い。
 ・急激に痩せる・太る、顔色が悪い、無表情になるなどの身体的変化。
 ・服装がだらしなくなる。

 企業は、社員のメンタルヘルス不調を見逃さないため、上記の特徴を把握しておく必要があります。ただし、上記の特徴から直ちにメンタルヘルス不調であると断定することはできません。当該社員の単なる素行不良によるものか、それともメンタルヘルス疾患によるものかを見極めることは難しいため、専門医を受診させる必要があります。

 そして、上記の特徴が見られ、メンタルヘルス不調社員を発見した際の初動対応として重要なことは、その社員の体調をこれ以上悪化させないことです。メンタルヘルス不調が悪化した場合、最悪の場合自殺に至る可能性があり、そうすれば企業がその社員の遺族から高額の損害賠償請求を受けるリスクがあります。

 このようなリスクを避けるためにも、できるだけ早く精神科や心療内科といった専門医の受診をさせて、その社員の抱えるメンタルヘルス不調が就業に与える影響の有無や程度を把握することが肝要です。

 専門医の診断により、就業上の支障が認められた場合には、業務を軽減したり、場合によっては本人の意向や医師の見解を確認した上で配置転換をするなどの措置をとる必要があります。また、休職が必要との見解が得られた場合には、その企業の休職規定に従って、休職させることになります。

 メンタルヘルス不調社員が休職に入る場合には、当該社員の休職期間中の不安を取り除くため、有給休暇の残日数、休職期間、休職期間中の賃金の有無、傷病手当金などの社会保険制度についてはあらかじめ説明しておくのがよいでしょう。また、メンタルヘルス不調社員との間で、休職期間中の連絡方法、頻度、診断書の更新、復職方法についても事前に話し合っておくことをお勧めいたします。

⑵ メンタルヘルス不調社員への休職中の対応

 また、メンタルヘルス不調で休職中の社員との連絡を全くとらなかった結果、後々にトラブルに発展してしまう企業も多くあります。

 企業の中には、メンタルヘルス不調の社員が長期欠勤等就業規則上の休職事由に該当して休職に入った場合、それを一つのゴールと捉えて、以降は全く連絡をとらずに休職期間が満了して自然退職になるのを待つ、という対応も見受けられます。

 しかし、そのような対応は適切とは言えません。

メンタルヘルス不調社員との間のトラブルで多いのが、休職期間の満了直前になって、メンタルヘルス不調社員から「復職可能」であるとの主治医の診断書が提出されることにより、復職可能であるかを巡って労使間で争いが生じるケースです。

 前述のとおり、メンタルヘルス不調については、医師ごとに見解が分かれることが多く、また主治医は当該休職者の業務内容、業務負荷、就業中の問題行動等を考慮することなく診断書を作成することがあるため、企業は休職者から提出された診断書を鵜呑みにするべきではありません。

 企業は、主治医の診断書の信用性を適切に判断するため、休職期間中も休職者と定期的に連絡を取って診断書を更新させ、また産業医面談又は会社の指定する専門医への受診を実施するなどして、メンタルヘルス不調社員の病状を適切に把握することが肝要です。

 休職者との連絡の頻度は、休職に入る前に本人と相談の上決定しておくべきですが、例えば通院ごとや診断書の提出ごとに病状を報告させることが考えられます。

 そして、休職期間の満了日までに復職ができなかった場合には、その企業の休職規定に従って、解雇又は自然退職によりその休職者は退職することとなります。この際、休職者から「休職の満了期間を知らなかった」などと主張され、トラブルになるケースもあるため、企業は、休職期間の1ヶ月程度前に、休職期間の満了を予告しておくべきです。

⑶ メンタル不調社員の復職・退職判断

 上記のとおり、当該休職者が復職可能であるか否か、すなわち復職・退職判断を巡って労務トラブルが生じるケースは多いです。当事務所にも、例えば「本人は業務を軽減した上での復職を希望しているが、休職期間満了時に休職前の業務に復帰できない場合には、退職扱いとしてよいか」などといったご相談が多く寄せられます。

 基本的には、休職期間満了時までにメンタル不調が「治癒」しない場合には、休職期間の満了により解雇又は自然退職扱いとなります、

 一方で、休職期間満了までに当該休職者が「治癒」した場合には、復職させることになります。

 ここで、復職の基準となる「治癒」とはどのような状態のことをいうのかが重要になります。「治癒」とは、原則として、休職前の従前の職務を通常の程度に行える健康状態にまで回復したか否かを基準とします。

 ただし、判例によれば、当該社員が職種や業務を限定していない社員の場合には、「その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして、当該労働者が配置される現実的可能性のあると認められる他の業務」を行えるのであれば、治癒が認められるとされています。(片山組事件・最判平10.4.9労判736号15頁)。

 つまり、職種や業務が限定されていない社員については、従前の職務をできない場合でも、その企業において実際に配置できる他の部署がある場合には、「治癒」が認められ、復職を認めなければならないケースがあるのです。

 したがって、企業は、その社員のキャリアや地位等に照らして、休職前に配属されていた部署以外の部署についても配置が可能であるかを検討する必要があります。

 一方で、職種や業務が限定されている社員については、限定されている職種・業務を行えない場合には、「治癒」は認められず、復職を認めないことができます。

▼関連記事はこちらから▼

【弁護士が解説】カスタマーハラスメントとは?介護業でよくある事例を弁護士が解説!

パワーハラスメントを行う社員への会社側の対応方法について弁護士が解説

 

3 メンタルヘルス不調社員への対応について当事務所がサポートできること

 メンタルヘルス不調社員を巡っては、上記のとおり、企業にとって留意すべきポイントが多く、社員のメンタルヘルス不調を最初に発見した際にまずどのように対応すべきか、休職とすべきか否か、休職期間中の対応方法、復職・退職の判断はどのようにすべきか、復職の方法・配置、主治医の見解と産業医の見解が分かれた場合にどのように対応すべきか等、企業を悩ませる様々な問題が生じます。

 これらの対応を誤ると、企業は安全配慮義務違反を理由として高額の損害賠償責任を負う可能性があります。また、SNSの拡散や報道により社会的評価が低下して採用力が低下し、また取引先が減少して売上げが低下するリスクもあります。

 メンタルヘルス不調社員については、上記のように重要な判例・裁判例や豊富な実務経験に基づく対応上の留意点を踏まえた対応が求められるため、労務問題に強い弁護士に相談することが推奨されます。

 当事務所は、事務所創設から42年以上に渡り労務問題を積極的に取り扱っており、最近でもメンタルヘルス不調社員への対応方法についてのセミナーも実施しております。また、当事務所は、顧問企業様からの日頃の労務相談においても、メンタルヘルス不調社員への対応についてのご相談を数多く受けております。

 当事務所に所属する弁護士は、顧問企業様からメンタルヘルス不調社員への対応についてご相談も数多く受けており、実務上の留意点や最新の判例・裁判例を踏まえたアドバイスをご提供することが可能ですので、お困りの際は是非一度ご相談ください。

Last Updated on 2024年3月19日 by loi_wp_admin


この記事の執筆者:弁護士法人ロア・ユナイテッド法律事務所
当事務所では、「依頼者志向の理念」の下に、所員が一体となって「最良の法律サービス」をより早く、より経済的に、かつどこよりも感じ良く親切に提供することを目標に日々行動しております。「基本的人権(Liberty)の擁護、社会正義の実現という弁護士の基本的責務を忘れず、これを含む弁護士としての依頼者の正当な利益の迅速・適正かつ親切な実現という職責を遂行し(Operation)、その前提としての知性と新たな情報(Intelligence)を求める不断の努力を怠らず、LOIの基本理念である依頼者志向を追求する」 以上の理念の下、それを組織として、ご提供する事を肝に命じて、皆様の法律業務パートナーとして努めて行きたいと考えております。現在法曹界にも大きな変化が起こっておりますが、変化に負けない体制を作り、皆様のお役に立っていきたいと念じております。