運送業のカスハラ対策とは?荷主・配送先からの過剰要求への対応を弁護士が解説

文責:中野 博和

運送業のカスハラは、荷主からのパワハラ型と配送先からの不当要求型に大別されます。立場の弱さから被害を放置すると、企業の安全配慮義務違反に問われるリスクがあります。ドライバーを守るため、企業は、運送契約書の見直し、ドラレコ等での証拠保全の対策を講じることが不可欠です。平時から弁護士に相談するなどして体制を整えておくことがカスハラ対応の鍵となります。

1 運送業におけるカスタマーハラスメントの2大パターン

運送業におけるカスハラは、主に「誰から被害を受けるか」によって大きく2つのパターンに分けられます。それぞれの性質を正しく理解することが、適切な対策を講じる第一歩となります。

(1) 荷主からのパワハラ型カスハラ

一つ目は、依頼主である荷主(元請け業者を含みます。)からのハラスメントです。これは、発注者である荷主が受注者に対して強い力関係を持つことを背景に行われるため、パワーハラスメントの性質を帯びているのが特徴です。

運送会社やドライバーは「文句を言えば次から仕事を回してもらえなくなるかもしれない」という恐怖心があるため、不当な要求であっても断りきれず、現場で抱え込んでしまう傾向にあります。

荷主からのパワハラ型カスハラの具体例としては、以下のようなものが挙げられます。

① 無償での付帯作業の強要

契約には含まれていない荷下ろし、棚入れ、倉庫内の整理整頓、ラベル貼りなどの作業を、「ついでにやっておいて」と無償で強要されるケースなどが挙げられます。

② 長時間の待機の強要

荷主の都合で荷物の準備ができておらず、数時間にも及ぶ長時間の荷待ちを強いられ、改善を求めても「待てないなら他の業者に頼む」と脅されるケースなどが挙げられます。

③ 理不尽なペナルティの要求

交通渋滞や悪天候など、ドライバーに過失のない不可抗力による遅延であるにもかかわらず、「遅れたから運賃は一切支払わない」などと要求されるケースなどが挙げられます。

④ 暴言・威圧的な態度

「代わりはいくらでもいる」など、ドライバーの人格を否定するような暴言を日常的に浴びせるケースなどが挙げられます。

(2) 配送先からの暴言・不当要求型カスハラ

二つ目は、荷物を届ける先である配送先からのハラスメントです。BtoB(企業間取引)の納品先企業によるものだけでなく、BtoC(個人向け宅配)の一般消費者によるものも含まれます。配送先とは直接の契約関係(運送契約)がないことが多く、運送会社としては対応の線引きが難しいのが特徴です。

配送先からの暴言・不当要求型カスハラの具体例としては、以下のようなものが挙げられます。

① 些細なミスに対する過剰なクレームと土下座の要求

指定時間に数分遅れただけで、玄関先で大声で怒鳴り散らされ、土下座を強要されたり、「誠意を見せろ」と金銭や品物を要求されたりするケースなどが挙げられます。

② 商品への不当な言いがかり

梱包の段ボールにわずかな傷やへこみがあるだけで(中身の製品には全く問題がないにもかかわらず)、「受け取りを拒否する」「新しいものと今すぐ交換してこい」と理不尽に激怒するケースなどが挙げられます。

③ SNSへの晒し行為

ドライバーの態度や駐車位置などをスマートフォンで無断撮影し、「悪質ドライバー」などと事実を誇張してSNSや動画共有サイトに投稿したり、投稿すると脅したりするケースなどが挙げられます。

2 クレームとカスハラの境界線

カスハラ対応において現場が最も悩むのが、どこまでが正当な要求(クレーム)で、どこからが不当な要求(カスハラ)なのかという判断です。ここでは法的な視点から両者の境界線を解説します。

(1) クレームとカスハラを分ける基準

労働施策総合推進法33条1項では、「職場において行われる顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者の言動であって、その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより当該労働者の就業環境が害されること」のないように事業主に対して一定の措置義務を課しており、これをクレームとカスハラとを分ける境界線と考えることができます。ただし、顧客や取引先等への対応という観点からすると、厳密には、「職場において行われる顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者の言動であって、その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたもの」であれば足り、必ずしも当該労働者の就業環境が害されることは必要ではないとも考えられます。

「その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたもの」の典型例としては、①そもそも要求に理由がない又は商品・サービス等と全く関係のない要求、 契約等により想定しているサービスを著しく超える要求、対応が著しく困難な又は対応が不可能な要求、 不当な損害賠償要求など、言動の内容が社会通念上許容される範囲を超えるもの、②身体的な攻撃、精神的な攻撃、威圧的な言動、継続的、執拗な言動、拘束的な言動など、手段や態様が社会通念上許容される範囲を超えるものが挙げられています。

言動内容が不当である場合はもちろんのこと、言動内容自体は正当であっても、抗議等の手段が社会通念上許容される範囲を超えていれば、カスハラに該当します。

(2) 荷主との契約関係があっても、ドライバーへの安全配慮義務は免除されない

運送会社の経営者や管理職が誤解しがちなポイントがあります。それは、「相手が重要な荷主だから」「元請けからの指示だから」といって、雇用しているドライバーを守らなくてもよい理由にはならないということです。

労働契約法5条により、企業(使用者)は労働者に対して「生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」という安全配慮義務を負っています。これは、社内の人間関係だけでなく、取引先や顧客からのハラスメントに対しても適用されます。

もし、ドライバーが荷主や配送先などから継続的にカスハラを受けていることを会社が認識し、又は容易に認識できたにもかかわらず、会社がこれを放置したために、ドライバーが精神疾患を発症した場合、会社は安全配慮義務違反として、ドライバーから損害賠償を請求されるリスクがあります。

3 運送会社が取るべき4つの具体的措置

カスハラからドライバーを守り、企業の法的リスクを軽減するためには、以下のような措置をとることが重要です。

(1) 荷主との基本契約書の見直し

荷主との間で交わしている運送委託基本契約書の内容を見直すことが重要です。

例えば、契約書において運送業務の範囲を明確にすることで、「ついでにやって」という無償の要求を契約上の根拠をもって拒否できるようになります。また、 契約書内に「荷主及び運送会社は、互いに相手方の従業員に対する暴言、暴力、不当な要求などのハラスメント行為を行ってはならない」「本条項に違反した場合、催告なく契約を解除できる」といった条項を設けることにより、荷主に対して牽制をすることができます。

(2) ドライブレコーダー・録音デバイスの活用

カスハラは「言った、言わない」の水掛け論になりやすいため、客観的な証拠を保全しておくことが極めて重要です。

荷積み・荷下ろし時の荷主側の態度や、配送先でのトラブルを記録するために、車両の前方だけでなく車内・後方を映せるドライブレコーダーを導入し、記録しておくことが有用です。また、特に玄関先や倉庫内など、車両から離れた場所でのトラブルに備え、ドライバーに小型の録音機器を支給することが考えられます。トラブル時には録音ボタンを押す、といった運用ルールを定めておくことで、後の法的措置における重要な証拠となります。なお、スマートフォンのアプリを用いて録音することもできますので、スマートフォンによる録音をもってボイスレコーダーに代替することもあり得るでしょう。

(3) 悪質な荷主・配送先への毅然とした対応方針の公表

自社がカスハラに対してどのような姿勢で臨むのかを、社内外に明確に宣言することも有効な対策です。

例えば、「当社は従業員に対するハラスメント行為を容認しません」「悪質な事案には警察への通報や法的措置を含む毅然とした対応をとります」といったカスハラに対する基本方針を策定し、自社のホームページ等で公表することなどが挙げられます。

(4) メンタルヘルスケアと法的支援の準備

被害を受けたドライバーのケアと、こじれてしまったトラブルの専門的な解決手段を準備しておくことも重要です。

例えば、カスハラ被害に遭ったドライバーが一人で悩まないよう、相談しやすい窓口を設置し、必要に応じて産業医や心理カウンセラーによるメンタルヘルスケアを受けられる体制や、自社だけでは解決困難な悪質クレーマー、法律違反の疑いがある荷主に対しては、迅速に外部の専門家に助言を求められる体制(顧問弁護士契約の締結など)を平時から構築しておくことが重要です。

4 カスハラについて弁護士に相談するメリット

カスハラ問題について弁護士に相談することには次のようなメリットがあります。

(1) カスハラ該当性に関する迷いの解消

現場で受けているクレームが正当な要求なのか、それとも不当要求(カスハラ)なのかを当事者だけで判断するのは困難です。弁護士に状況を説明することで、個々の事案において顧客等からのクレームがカスハラであるか否かについての助言を受けられます。これにより、会社として「ここは毅然と断ってよい」という確信を持った判断が可能になります。

(2) 契約書やマニュアルの改訂

インターネット上の雛形をコピーしただけの契約書やマニュアルでは、実際のトラブル発生時に役に立たないことが多々あります。運送業の実態や、最新の法改正・裁判例に精通した弁護士であれば、自社の業務の実態に合った運送委託契約書の作成や、カスハラ対応マニュアルの策定をサポートできます。

(3) 企業の安全配慮義務違反リスクの回避

前述のとおり、万が一ドライバーが精神疾患を発症した場合、企業は損害賠償責任を負うリスクがあります。平時から弁護士と連携し、適切なカスハラ対策を講じている実績を残しておくことは、「会社は安全配慮義務を十分に果たしていた」という評価を受けやすくなります。

5 当事務所のサポート内容

当事務所ではカスハラを含む労働問題について豊富な対応実績があります。 かかる実績を活かして、カスハラ対応に関するアドバイスはもちろん、代理人としての法的手続等への対応等をさせていただくことが可能ですので、お気軽に当事務所にご相談ください。

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Last Updated on 2026年10月19日 by loi_wp_admin


この記事の執筆者:弁護士法人ロア・ユナイテッド法律事務所
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