製造業におけるパワハラ問題と未然防止の重要性とは

文責:中野 博和

1 製造業におけるパワハラの現状

製造業の現場は、日本の産業を支える屋台骨である一方で、ハラスメントの温床となりやすい構造的な課題を抱えています。

(1) 職人気質と現代の価値観とのギャップ

製造業、特に中小規模の工場や加工現場では、長年にわたり「厳しく叩き込んで一人前にする」といった、いわゆる「職人気質」の文化が根付いてきました。技術伝承の過程において、師匠(上司)から弟子(部下)への厳しい叱責は、かつては愛の鞭として許容される傾向にありました。

しかし、現代においては、人格を否定するような言動などはパワハラと認定されます。このような従来の指導方法と現代のコンプライアンスのギャップに苦しむ管理職が多く、無自覚なパワハラが横行する要因となっていると考えられます。

(2) 「安全第一」という大義名分

製造現場では、ひとつのミスが重大な労働災害につながる可能性があります。そのため、「命に関わることだから」といった理由で、大声で怒鳴ることなどが正当化されやすい環境にあります。 もちろん、緊急時の危険回避行動は正当業務行為として認められますが、日常的な指導において「安全のためなら何を言っても許される」という誤った認識が蔓延している現場は少なくないと思われます。

2 パワハラが引き起こす問題点

製造業においてパワハラが引き起こす問題は、以下のとおり多岐にわたります。

(1) 労働災害リスクの増大(安全配慮義務違反)

これが製造業における最大のリスクです。上司からの叱責を恐れるあまり、部下はミスを報告しないなどの行動に出るようになります。

このような状況下においては、指詰めなどの重大な労災事故を招いてしまう可能性があります。

パワ ハラを放置した結果として労災が発生した場合、企業は安全配慮義務違反が認められ、場合によっては億単位の損害賠償を請求される可能性があります。

(2) 人材流出と採用難

近時、SNSの普及によって、ブラック企業に関する情報などは瞬く間に拡散してしまいます。若手技術者が定着せず、熟練工の技術継承が途絶えれば、企業の存続そのものが危ぶまれます。特に人手不足が深刻な製造業において、パワハラによって退職者が増加する一方で新規採用が困難となれば、生産ラインの停止や納期遅延などが生じかねません。

(3) 生産の質と効率の低下

パワハラによって職場の雰囲気が悪化すれば、チームワークが必要なライン作業や工程間の連携に支障をきたします。従業員のモチベーション低下は、不良品発生率の上昇や歩留まりの悪化などの数値に表れ、顧客の信頼喪失につながります。

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3 パワハラ問題の解決策

パワハラ問題への対応は、起きてからどうするか(事後対応)ではなく、起きないようにどうするか(未然防止)に経営資源を投下することが鉄則です。

(1) 事後対応ではなく未然防止が重要な理由(コスト比較)

未然防止策にかかるコストと、実際に訴訟等のトラブルに発展した場合のコストを比較すると、その差は歴然としています。

① 未然防止コスト

社内研修費用、外部相談窓口の設置費用、就業規則改定費用など。

これらは計画的に予算化でき、かつ従業員の満足度向上や定着率改善という効果も見込めます。また、次に紹介する事後対応コストよりも安価となるのが一般的です。

② 事後対応コスト

事後対応コストとしては、金銭的コスト、時間的コスト、及び社会的コストが考えられ、具体的には次のとおりです。

【金銭的コスト】

弁護士費用(着手金・報酬金)、解決金又は損害賠償金(事案によって異なりますが、数百万円~数億円など)など。

【時間的コスト】

社内調査への対応、裁判所への出頭、度重なる打ち合わせなど。

【社会的コスト】

企業名公表によるブランド価値の毀損、信用の低下など。

特に金銭的コストについては、事案によっては億単位の損害賠償となってしまう可能性もないとはいえないため、事後対応では大きな金銭的コストがかかってしまう可能性があります。

また、パワハラを未然に防ぐことで訴訟等の紛争対応に費やすエネルギーを生産活動に向けることもできます。

以上からすると、未然防止は低コストであり、非常に合理的な方針であるといえます。

(2) 相談窓口の設置と実効性の確保

労働施策総合推進法30条の2第1項により、パワハラの相談窓口を設置することは義務化されていますが、単に相談窓口を設置するだけでは不十分です。

相談窓口においては、被害を受けた労働者が萎縮するなどして相談を躊躇する例もあること等も踏まえ、相談者の心身の状況や当該言動が行われた際の受け止めなどその認識にも配慮しながら、職場におけるパワーハラスメントが現実に生じている場合だけでなく、その発生のおそれがある場合や、職場におけるパワーハラスメントに該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応し、適切な対応を行うことが求められています。

そのため、相談窓口の担当者向けのマニュアルを作成したり、相談対応の研修を実施したりするなどの準備が必要です。

(3) パワハラ防止のための研修

どこまでが指導で、どこからがパワハラとなるかの境界線は曖昧で分かりにくいです。

そこで、例えば、管理職向けの研修等で、どこからがパワハラかの法的な定義等を解説すると同時に、怒鳴らずに部下を指導するアンガーマネジメントや、具体的な指導用法のトレーニング等を行うとよいでしょう。

(4) トップメッセージの発信

パワハラは、企業の組織的な文化を背景にして行われることも多いです。

組織のトップが、パワハラを行ってはいけない旨やパワハラに対しては厳正に対処していく旨の方針等を社内に向けて明確にすることで、企業内の悪しき文化を変えていくことが期待できます。

4 企業の内部対策だけでは不十分な理由

社内のリソースだけでパワハラ問題を解決・防止することには限界があります。

人事部やコンプライアンス部門が調査を行う場合、どうしても、会社を守りたい、波風を立てたくないというバイアスが働きます。また、加害者が役員や発言力の強い現場責任者(工場長など)である場合、調査担当者が忖度し、事実が隠蔽・矮小化されるリスクがあります。

また、相談窓口に行けば現場にいづらくなる、犯人探しが始まる、といった不信感があると被害者は相談窓口に相談することを諦めてしまいます。結果として、問題が表面化したときには、すでに法的措置をとる段階まで事態が悪化していることがほとんどです。

5 弁護士に相談する必要性

パワハラ問題は、事実認定の難しさや法的判断の複雑さから、弁護士のサポートが不可欠です。

指導とパワハラの境界線は曖昧であるため、現場の言動が「指導」の範囲内か、「パワハラ」に該当するかについて、裁判例の蓄積に基づいた判断が必要です。弁護士に相談することにより、厚生労働省の指針や過去の裁判例に照らした判断をすることができます。

また、問題発生時、どのように事実調査を行い、どのような処分を下すべきか、手順を誤ると、逆に加害者から違法な処分だと訴えられてしまうリスクもあります。弁護士に相談することにより、法的に適正なプロセスを実施し、二次的な紛争リスクを低減させることができます。

加えて、弁護士を外部相談窓口とした場合、従業員に対して、第三者が話を聞いてくれる、という安心感を与え、従業員が安心してパワハラについて相談することができ、企業にとっては、潜在的なリスク情報を早期に収集することができるようになります。

さらに、万が一、被害者から訴えられた場合、弁護士が代理人として矢面に立ちます。この場合、法的観点から合理的な主張をしてもらうことが期待できるとともに、精神的な負担を低減することができます。

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6 当事務所のサポート内容

当事務所では、パワーハラスメントをはじめとした労働紛争について豊富な解決実績があります。

これらの実績を活かして、パワーハラスメントに関するアドバイスはもちろん、代理人としての法的手続等への対応等をさせていただくことが可能ですので、お気軽に当事務所にご相談ください。

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Last Updated on 2025年12月26日 by loi_wp_admin


この記事の執筆者:弁護士法人ロア・ユナイテッド法律事務所
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