
文責:岩出 誠
はじめに
近年、職場におけるパワーハラスメント(以下、パワハラ)への社会的な関心は非常に高まっています。2020年6月1日に施行された改正労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)により、企業にはパワハラ防止措置が義務付けられました。
即ち、パワハラ法30条の2第1項「事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」と規定され、「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」令2・1・15厚労告5。以下、「パワハラ指針」という)の策定や(同条3項)、「優越的言動問題」と呼称して(30条の2弟1項)、紛争解決援助制度が定められています。
この法律は、単に会社としての体制整備を求めるだけでなく、部下を持つ管理職一人ひとりにも、パワハラを正しく理解し、適切に対応することを強く求めています。
本稿では、管理職が知っておくべきパワハラの基礎知識から、具体的な対応策、そして法的責任までを、弁護士が分かりやすく解説します。
第1章:これだけは知っておきたい!パワハラの基礎知識
まず、パワハラが法律上どのように定義されているかを正確に理解することが、すべての基本となります。
パワハラの3つの要素
法律では、パワハラを以下の3つの要素をすべて満たすものと定義しています(法30条の2第1項。裁判例では、パワハラ法の施行後は、法文に沿った定義を判示し、福生病院企業団(旧福生病院組合)事件・東京地立川支判令2・7・1労判1230号5頁では「一般に,パワーハラスメントとは,同じ職場で働く者に対して,職務上の地位や人間関係等の職場内の優位性を背景に,業務の適正な範囲を超えて,精神的,身体的苦痛を与える,または職場環境を悪化させる行為」をいうと判示しています)。
- ① 優越的な関係を背景とした言動
- ② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
- ③ 労働者の就業環境が害されること
これらのどれか一つでも欠ければ、法律上のパワハラには該当しません。しかし、客観的に見て「適正な指導」の範囲を超える不適切な言動は、職場の秩序を乱し、最終的に法的紛争に発展するリスクをはらんでいます。
① 「優越的な関係」とは?
これは、単に「上司から部下へ」という関係に限りません。
- 職務上の地位が上位の者による言動(典型的なパワハラ)
- 同僚または部下による言動
- 業務に必要な知識や経験が豊富で、その人の協力なしに業務が進められない場合。
- 集団で行われ、抵抗することが難しい場合(いわゆる「逆パワハラ」※)。
裁判例でも、部下が上司に対して誹謗中傷のビラを配布したケースや、同僚が集団でいじめを行ったケースがパワハラと認定されています(国・渋谷労基署長(小田急レストランシステム)事件・東京地判平21・5・20労経速2045号3頁)。管理職は、自身が加害者にならないよう注意すると同時に、部下同士や、時には自身が被害者となる「逆パワハラ」の可能性も認識しておく必要があります。
※同僚又は部下による言動に関して、マスコミ等で「逆パワハラ」と言われることがあり、検討しておきます。
逆パワハラとは、典型例が、部下らに指示を無視され、舌打ちされたり、集団で誹謗中傷メールを送信されたりすることです。
パワハラは通常上司からの行為が問題とされますが、上記のように、パワハラ指針でも、逆パワハラを想定しています。即ち、パワハラ3要素たる、「①職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより③その雇用する労働者の就業環境が害されること」の内の「①職場において行われる優越的な関係」について、当該事業主の業務を遂行するに当たって、当該言動を受ける労働者が当該言動の行為者とされる者(以下「行為者」という)に対して抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として行われるものをいう(パワハラ指針2(4))としたうえで、「・同僚又は部下による言動で、当該言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの/・同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの」も明示されている。
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② 「業務上必要かつ相当な範囲」の境界線
ここが最も判断が難しく、管理職が悩むポイントです。社会通念に照らして、その言動が「明らかに業務上の必要性がない」または「やり方が相当でない」と判断されると、この要件に該当します。
この判断に当たっては、様々な要素(当該言動の目的、当該言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む当該言動が行われた経緯や状況、業種・業態、業務の内容・性質、当該言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係性等)が総合的に考慮される。また、その際には、個別の事案における労働者の行動が問題となる場合は、その内容・程度とそれに対する指導の態様等の相対的な関係性が重要な要素となることについても留意が必要です。
【判断のポイント】
- 言動の目的(指導・注意のためか、嫌がらせか)
- 言動を受けた労働者の問題行動の有無やその程度
- 言動の態様、頻度、継続性
例えば、部下のミスに対して厳しい口調で注意すること自体は、業務上の指導の範囲内とされる可能性があります(裁判例における総合判断の例として、医療法人財団健和会事件・東京地判平21・10・15労判999号54頁では、事務職員が、何度も指導を受けながらも、パソコン操作ミスで住所の入力を間違え、健康診断書が受信者に届かなかった、健康診断の順路案内記載を消してしまった等のかなり初歩的なミスを繰り返していた事案において、医療現場における正確性を期するための指導・注意(同時期に入職した派遣社員と仕事内容の差が広がっている、事務職員として要求する水準に達していない等)については、これが厳しい物言いであっても、生命・健康を預かる職場の管理職が医療現場において当然になすベき業務上の指示の範囲内にとどまるとした点が注目されます。また、国立大学法人A大学事件・旭川地判令5・2・17労経速2518号40頁では、大学教授らの厳しい叱責等が、会話会体の内容を踏まえると、叱責が相当長時間に及んだことを考慮しても、いまだ業務指導として適正な範囲を超えるものとまではいえず、違法なハラスメント行為に当たるとまでは認められないにあたらないとさました)。しかし、それが人格を否定するような暴言であったり、他の従業員の面前で長時間にわたり執拗に叱責したりすれば、「業務の範囲を超えた」と判断される可能性が高まります。
また、いかに緊急事態下であっても暴行が正当化されることは正当防衛や緊急避難(民法720条「他人の不法行為に対し、自己又は第三者の権利又は法律上保護される利益を防衛するため、やむを得ず加害行為をした者は、損害賠償の責任を負わない。」)等の違法性阻却事由がない限りあり得ません※。
※ 災害対応時の緊迫した状況下であっても、部下の椅子を足で蹴って指示した行為は、業務上の必要性がなくパワハラに該当すると判断された事例があります(神戸市・代表者交通事業管理者事件・神戸地判令3・9・30労ジャ120号44頁)。
③ 「就業環境が害される」とは?
これは、「平均的な労働者」がその言動を受けた場合に、身体的または精神的に苦痛を感じ、**「能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、看過できない程度の支障が生じる」**ことを指します。
つまり、言われた本人が「不快だ」と感じただけでは足りず、社会一般の労働者の感覚を基準に客観的に判断されます。ただし、言動を受ける側の心身の状況(病気の治療後など)への配慮が求められる場合もあり※、注意が必要です。
※U銀行(パワハラ)事件・岡山地判平24・4・19労判1051号28頁では、「辞めてしまえ。」、「足がけ引っ張るな。」、「足引っ張るばあすんじゃったら、おらん方がええ。」などと言いながらの叱責等につき、「本件で行われたような叱責は、健常者であっても精神的にかなりの負担を負うものであるところ、脊髄空洞症による療養復帰直後であり、かつ、同症状の後遺症等が存するXにとっては、さらに精神的に厳しいものであったと考えられること、それについてY2(支店長代理)が全くの無配慮であったことに照らすと、…Y2の行為はパワーハラスメントに該当する」判示された(ただし、2審・広島高判平成24・11・1LEX/DBは、Xの具体的なミスに対してされたものであり、注意や叱責が長時間にわたったわけではなく、口調も常に強いものであったとは言えず、「原告の脊髄空洞症罹患を考慮したとしても」パワハラ等に違法性ないなどとして請求を全面棄却してはいるが障碍者への配慮の論点は残っています)。
従って、雇用環境・均等部(室)からの指導等の行政的介入は回避できても民事責任が問われる場合があるという点に留意が必要です。
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第2章:パワハラの代表的な6つの類型
パワハラ指針では、代表的な言動の類型として以下の6つが示されています。これらは、第1章の3要素を満たした場合にパワハラと判断されます。
ただし、個別の事案の状況等によって判断が異なる場合もあり得ます。また、各類型毎の例示は限定列挙ではないことに十分留意し、広く相談に対応するなど、適切な対応を行うようにすることが必要です。また、実際には裁判例の事案をみれば明らかなように、①身体的な攻撃②精神的な攻撃が重なって起こることが多く、④過大な要求⑤過小な要求⑥個の侵害も広い意味では、②精神的な攻撃に繋がるなど、各類型が完全に分離・独立して起こるものではありません。
なお、パワハラに該当すると考えられる各類型については、行為者と当該言動を受ける労働者の関係性を個別に記載していませんが、優越的な関係を背景として行われたものであることが前提となっています。
なお、「職場におけるハラスメント対策が事業主の義務になりました︕」厚労省HP掲載でも、“これらの例と少し異なるからといって、必ずしもパワーハラスメントに該当しない、又は該当するということにはなりません。 職場におけるパワーハラスメントは、定義の3つの要素…を満たすもので あり、個別の事案についてこの該当性を判断するに当たっては、当該事案における様々な要素(当該言動の目的、当該言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む当該言動が行われた経緯や状況、業種・業態、業務の内容・性質、当該言動の態様・ 頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者の関係性、当該言動により労働者が 受ける身体的又は精神的な苦痛の程度等)を総合的に考慮して、個別に判断することが 必要です。 例えば、「一定程度」がどの程度かということについても、こうした様々な要素を総 合的に考慮して、業務上必要かつ相当な範囲内であるかどうかを個別に判断することと なります。 このため、一見、該当しないと考えられる例に当たると思われるケースであっても、 広く相談に応じ、事実関係を迅速かつ適切に確認するなど、適切な対応を行うことが求められます。”と指摘しています。
さらに、パワハラ3要素が全てそろわないとパワハラ防止法上は違法とは言えませんが、「①優越的な関係を背景とした言動」とは言えない同僚間の行為であっても、「②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるもの」となれば、パワハラ防止法上のパワハラ規制の対象とならなくても、同僚個人による人格権侵害の不法行為となり得ます。そして、当該行為が業務遂行中になされれば、使用者が、民法715条による使用者責任を免れないことになり得ますし、当該行為の軽重・態様・動機・目的や新たな業務付与における説明の仕方等によっては、正に、「社会通念上不適切な行為」と言われ、調停においては、条理による解決(民事調停法1条)が求められる場合があり得ます。
ア 身体的な攻撃(暴行・傷害)
≪該当例≫
① 殴打、足蹴りを行うこと。
② 相手に物を投げつけること。
≪非該当例≫
① 誤ってぶつかること。
【最近の裁判例】
≪該当例≫
●神戸市・代表者交通事業管理者事件・神戸地判令3・9・30,EX/DB<座っていた椅子の背部を1回蹴られた>
●氷見市消防署事件・最三小判令4・6・14判時2551号5頁<暴行>
●長門市・長門市消防長事件・最三小判令4・9・13労判1277号5頁<暴行>
●東海交通機械事件・名古屋地判令4・12・23労経速2511号15頁<土下座、暴行>
●住友不動産事件・名古屋地判令5・2・10労経速2515号31頁<注意する際、自分は椅子に座り、部下に片膝を立てた姿勢を取らせたり、平手で頭や肩を叩いたり、紙のファイルで頭や机を叩く>等
≪非該当例≫
例外的ですが、有形力の行使の全てがパワハラになるとは限りません。
●エヌ・ティ・ティ・ネオメイト事件・大阪地判平24・5・25労判1057号78頁<部下同士の暴行事案に対して上司がXを静止するために、間に入って、Xの腕を取って自席に戻るよう誘導したのはXの上司として仲裁をしたに過ぎず、違法性は認められない:緊急避難的行為例>
●広島県(教員パワハラ)事件・広島高判平25・6・20労ジャ18号29頁<教頭が教諭の腕をつかむという制止行為は、校長に処分の告知という正当な職務行為を続行させるため、教諭の不相当な妨害行為を排除する目的で行ったものであったうえ,その態様も、向かってくる教諭の腕をつかむという教諭の妨害行為を制止する最低限度の有形力の行使にとどまるものであったし、教諭に過度の精神的負担を負わせるものとはいえない:正当防衛的行為例>
イ 精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)
≪該当例≫
① 人格を否定するような言動を行うこと。相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を行うことを含む。
② 業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行うこと。
③ 他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行うこと。
④ 相手の能力を否定し、罵倒するような内容の電子メール等を当該相手を 含む複数の労働者宛てに送信すること。
≪非該当例≫
① 遅刻など社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意してもそれが改善されない労働者に対して一定程度強く注意をすること。
② その企業の業務の内容や性質等に照らして重大な問題行動を行った労働者に対して、一定程度強く注意をすること。
【最近の裁判例】
≪該当例≫
●辻・本郷税理士法人事件・東京地判令元・11・7労経速2412号3頁<元従業員を自らの席の横に立たせた状態で叱責し、また、人事部全体に聞こえるような大きな声で執拗に叱責>
●社会福祉法人千草会事件・福岡地判令元・9・10労経速2402号12頁<人格否定的発言>
●名古屋市交通局長事件・名古屋地判令2・2・17LEX/DB<強圧的な言動により継続的かつ長期間にわたり過重な心理的負荷を与えること等>
●フジ住宅事件・大阪高判令3・11・18労判1281号58頁<「民族的出自等に基づいて差別、侮辱>
●沖縄医療生活協同組合労働組合ほか事件・那覇地判令4・3・23LEX/DB<LINEメッセージ利用>
●国・高松刑務所事件・高松高判令4・8・30LEX/DB<不適切指導・叱責>
●長門市・長門市消防長事件・最三小判令4・9・13労判1277号5頁<暴言>
●東海交通機械事件・名古屋地判令4・12・23労経速2511号15頁<暴行を含む叱責>
●ちふれホールデイングス事件・東京地判令5・1・30労経速2524号28頁<宛先やCCに該当者以外を入れて部下叱責メール送信>
●住友不動産事件・名古屋地判令5・2・10労経速2515号31頁<暴行を含む叱責>
●医療法人社団慈昂会事件・札幌地判令5・3・22LEX/DB<「バカ」という侮辱的な言動>
●国・津労基署長(中部電力)事件・名古屋高判令5・4・25労経速2523号3頁<人格否定的発言>等
≪非該当例≫
●医療法人財団健和会事件・東京地判平21・10・15労判999号54頁<業務指導として適正な範囲内>
●有限会社Y事件・東京高判令4・8・19判時2552号92頁
●国立大学法人A大学事件・旭川地判令5・2・17労経速2518号40頁等
ウ 人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
≪該当例≫
① 自身の意に沿わない労働者に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりすること。
② 一人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させること。
≪非該当例≫
① 新規に採用した労働者を育成するために短期間集中的に別室で研修等の教育を実施すること。
② 懲戒規定に基づき処分を受けた労働者に対し、通常の業務に復帰させるために、その前に、一時的に別室で必要な研修を受けさせること。
【最近の裁判例】
≪該当例≫
●埼玉県森林組合連合会事件・さいたま地判令5・4・28労ジャ141号28頁<隔離された部屋での勤務放置、長期の自宅待機命令等>
●堀川化成事件・大阪地判令5・9・14労ジャ142号46頁<組合脱退勧奨及び退職勧奨並びに人間関係の切り離し>
●任天堂事件・京都地判令6・2・27労ジャ148号22頁<一方的な定例ミーティングの中止及び廃止>等
≪非該当例≫
●オフィス・デヴィ・スカルノ元従業員ら事件・東京地判令5・11・30労判1301号5頁<コロナ禍の下で、従業員が,社長の帰国後2週間は在宅での勤務を行う旨の方針を決定し,その旨を社長に申し出たこと>等
エ 過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)
≪該当例≫
① 長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命ずること。
② 新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責すること。
③ 労働者に業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせること。
≪非該当例≫
① 労働者を育成するために現状よりも少し高いレベルの業務を任せること。
② 業務の繁忙期に、業務上の必要性から、当該業務の担当者に通常時よりも一定程度多い業務の処理を任せること。
【最近の裁判例】
≪該当例≫
●スタッフブレーン・テクノブレーン事件・宇都宮地判令2・5・14労ジャ103号82頁<社長の自宅庭の芝刈りや草むしり>
●大津市事件・大津地判令6・2・2LEXDB<偽装請負となる違法行為を行うよう命じる職務命令>
●学校法人獨協学園事件・さいたま地越谷支判令5・12・5労ジャ145号12頁<言語聴覚士に対して、上司の医師が、月間330単位を取得するよう圧力>等
≪非該当例≫
●山九事件・東京地判令3・12・24LEX/DB<謝罪メール送信>等
オ 過小な要求(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
≪該当例≫
① 管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせること。
② 気にいらない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えないこと。
≪非該当例≫
① 労働者の能力に応じて、一定程度業務内容や業務量を軽減すること。
【最近の裁判例】
≪該当例≫
●JR西日本(森ノ宮電車区・日勤教育等)事件・大阪高判平21・5・28労判987号5頁〈車両の天井清掃や除草作業命令〉
●オリンパス事件・東京高判平23・8・31労判1035号42頁〈初歩のテキストを勉強させられ続けた等〉
●食品会社A社(障害者雇用枠採用社員)事件・札幌地判令元・6・19労判1209号64頁<業務を与えず、またはその地位、能力および経験に照らして、これらとかけ離れた程度の低い業務にしか従事させない状態の継続>等
≪非該当例≫
●東武バス日光ほか事件・東京高判令3・6・16労判1260号5頁<運転士服務心得の部分的な閲覧・筆写、過去の苦情案件にかかるドライブレコーダー映像の視聴等の繰り返しなどの行為が、「教育指導の目的の範囲から逸脱するものであるとはいえない>
●東大阪市事件・大阪地判令3・12・27労ジャ122号26頁<自らの行為について何度指導を加えても、基本的に非を認めて反省することがない職員の態度に対して事業所長が、職員に対して清掃車への乗務を原則として禁止し、事業所内での作業を命じたこと>等
カ 個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
≪該当例≫
① 労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりすること。
② 労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること。
≪非該当例≫
① 労働者への配慮を目的として、労働者の家族の状況等についてヒアリングを行うこと。
② 労働者の了解を得て、当該労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、必要な範囲で人事労務部門の担当者に伝達、配慮を促すこと。
この点、プライバシー保護の観点から、機微な個人情報を暴露することのないよう、労働者に周知・啓発する等の措置を講じることが必要とされています。
【最近の裁判例】
≪該当例≫
●関西電力事件・最三小判 平成7・9・5労判680号28頁<ロッカーの開扉・撮影、尾行等>
●名古屋南労基署長(中部電力)事件・名古屋高判平19・10・31労判954号31頁〈複数回にわたって結婚指輪を外すよう命令〉
●サン・チャレンジほか事件・東京地判平26・11・4〈労判1109号34頁<中国人女性との交際への介入等〉
●公益社団法人島根県水産振興協会事件・広島高松江支判令元・9・4LEX/DB<内縁の妻に対する社内で孤立化させるような言動>
●フジ住宅事件・大阪高判令3・11・18労判1281号58頁<人種・国籍差別言動>等
≪該当性否定例≫
●DMM.com事件・東京地判令3・11・15労ジャ122号48頁<面談やその質問内容は必要性ある範囲にとどまっている>
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第3章:管理職に求められる具体的な対応
管理職としてのパワハラへの対応は、「予防」と「発生時の対応」の二段構えで考えることが重要です。
【予防策】パワハラを発生させない職場づくり
- 自身の言動を振り返る: 自身の指導が「指導」の範囲を超えていないか、常に客観的に見つめ直しましょう。アンガーマネジメントも有効です。
- コミュニケーションを密にする: 日頃から部下との対話を心がけ、信頼関係を築くことが、誤解や不満の蓄積を防ぎます。
- 明確な方針を示す: 朝礼やミーティングの場で「私たちの職場では、いかなるハラスメントも許さない」という毅然とした態度を明確に示しましょう。
【発生時の対応】相談を受けたら、どう動くか
部下から「パワハラを受けているかもしれない」と相談された場合、管理職の初期対応が極めて重要です。以下のステップを厳守してください。
- 傾聴と共感 (話を聴く)
- まずは真摯に、遮らずに話を聴くことに徹します。
- 相談者のプライバシーは必ず守ること、相談したことで不利益な扱いを受けないことを明確に伝えます。
- この段階で、安易に自分の意見を言ったり、善悪の判断をしたりしてはいけません。
- 事実関係の確認
- 相談内容に基づき、中立的な立場で事実確認を行います。
- 相談者、行為者とされる人物、そして必要に応じて第三者から、客観的な事実を聴取します。この際も、関係者のプライバシー保護を徹底します。
- 証拠の有無(メール、録音など)も確認します。秘密録音であっても、裁判では有力な証拠となる場合があります※。
※事実確認の過程で、パワハラの証拠として頻繁に利用される秘密録音に関して、マタハラの事案ですが、対面ではない場合でも、救済申立等のための採証活動としてなされた場合等には適法と解した医療法人社団Bテラスほか事件・東京高判令5・10・25労判1303号39頁が出ています。即ち、従業員の誰もが利用できる控室に秘密裏に録音機器を設置して他者の会話内容を録音する行為は、相当な証拠収集方法であるとはいえないが、著しく反社会的な手段であるとまではいえないことから、違法収集証拠とはいえないとされました。したがって、かかる方法で秘密録音された記録も排除はできないことに留意すべきです。
- 会社への報告と連携
- 最も重要なポイントは、管理職一人で解決しようとしないことです。
- 必ず、社内のハラスメント相談窓口や人事部門に速やかに報告し、指示を仰ぎます。自己判断での対応は、問題をかえって複雑化させる危険があります。
- 事後措置とフォロー
- 会社が事実を認定し、行為者への注意・指導や配置転換などの措置を決定したら、その決定に従います。
- 被害を受けた従業員のケアはもちろん、職場全体の環境が改善されるよう、継続的なフォローと再発防止策の徹底が求められます。
第4章:管理職が知っておくべき法的責任
パワハラを放置したり、不適切な対応をしたりした場合、会社が使用者責任や職場環境配慮義務違反として、被害者から損害賠償を請求される可能性があります。
さらに、管理職自身がパワハラの行為者であった場合や、パワハラの事実を知りながら放置した場合には、会社だけでなく管理職個人も、不法行為として損害賠償責任を負うリスクがあります。役員が個人責任を問われた裁判例も存在します。
パワハラ対応は、単なる部下指導の問題ではなく、法的リスクを管理する上でも極めて重要な責務なのです。
管理職は、パワハラ防止の最前線に立つキーパーソンです。パワハラを正しく理解し、予防に努め、万が一発生した際には迅速かつ適切に対応することが、部下と自身を守り、ひいては生産性の高い健全な職場環境を築くことに繋がります。
第5章 管理職に求められるパワハラ対応について当事務所でサポートできること
管理職に求められるパワハラ対応については、逆パワハラも視野に入れてのハラスメント関連諸規程やマニュアルの整備、既存の就業規則の人事考課、降格、懲戒規定との整合性の確保、不利益変更などの非難を回避したり、そのリスクを軽減するためのアドバイスや諸規程やマニュアルの策定自体と従業員への説明会への助言、指導が必要です。就業規則等の改正に伴う労働組合とのトラブルも発生するリスクへの対応の必要もあります。
これらの点については、労働事件・労務管理について多くの経験を有する弁護士に相談するのが有益です。
前記のリスクを顕在化させないため、例えば、パワハラへの相談対応が懈怠し、損害賠償請求や精神障害の労災認定など予防し、これらの紛争を予防する労務管理体制を構築するためにも、当事務所にご相談いただければと思います。
また、パワハラ防止のための各段階でのセミナー講師などでにおいても、ご相談いただければと思います。
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