クリニックの就業規則作成における弁護士の役割と重要性

文責:中村 仁恒

1 クリニックにおける就業規則の必要性と目的

クリニックでは、医師、看護師、技師、事務職員といった多様な職種の専門家が働いています。また、宿直やオンコール待機など、一般企業とは異なる特殊な勤務形態も存在します。このような環境下で、全ての職員が公平で納得感を持って働けるようにするためには、明確なルールブックである「就業規則」が不可欠です。

就業規則の目的は、労働条件や服務規律を明確に定め、職員との間の無用なトラブルを未然に防ぎ、また、いざトラブルになった場合でも合理的な解決を可能にすることにあります。就業規則整備することにより、労働基準法をはじめとする各種法令を遵守した内容とすることで、法的なリスクを回避し、安定したクリニック運営を実現することを目指します。

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2 就業規則の基本構成

就業規則は、労働基準法によって必ず記載しなければならない「絶対的必要記載事項」と、クリニックで制度として定める場合に記載義務が生じる「相対的必要記載事項」で構成されます。

(1)絶対的必要記載事項(必ず記載が必要)

①始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇に関する事項:勤務時間や休憩、休日を具体的に定めます。シフト制の場合は、交代に関するルールも明記します。

②賃金に関する事項:給与の決定、計算・支払方法、締切・支払時期、昇給について定めます。

③退職に関する事項::定年や自己都合退職の手続き、解雇の事由などを定めます。

(2)相対的必要記載事項(制度がある場合に記載が必要)

・退職手当に関する事項

・賞与などの臨時の賃金、最低賃金額に関する事項

・食費、作業用品などの費用負担に関する事項

・安全衛生に関する事項

・職業訓練に関する事項

・災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項

・表彰や制裁(懲戒処分)の種類や程度に関する事項

・その他、全労働者に適用される事項(休職など)

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3 クリニック特有の就業規則項目

一般的な記載事項に加え、クリニックの運営実態に合わせて以下のような特有の項目を整備することが極めて重要です。

・多様な専門職ごとの労働条件:医師、看護師、技師、事務など、それぞれの職種の実態に即した労働時間や賃金設計(固定残業代を含む)を定める必要があります。

・医師の労働時間管理(2024年問題):2024年4月から適用された医師の時間外労働上限規制(原則年間960時間)を遵守するための規定が必要です。また、規制内の労働時間であっても、過労を防ぐ安全配慮義務を果たすための体制整備が求められます。

・宿日直制度:労働基準監督署の許可を得ることを前提に、通常の労働時間規制の対象外となる宿日直勤務のルールを設計します。これにより、割増賃金の対象外とするなどの対応が可能になります。

・オンコール待機:自宅等での待機が労働時間に該当するか否かは、呼び出し頻度や待機中の制約の程度によって判断されます。労働時間とみなされないよう、裁判例などを踏まえて適切な制度設計を行うことが重要です。

・固定残業代:医師の高い給与や長時間労働を背景に、残業代請求は高額になりがちです。最新の判例(日本ケミカル事件など)に沿って適法な固定残業代制度を導入することで、人件費の管理と紛争予防に繋がります。

・問題社員対応:遅刻・欠勤、協調性の欠如、能力不足といった問題社員に対し、懲戒処分や解雇を検討する際の手続きを定めます。指導記録の適切な保管など、客観的な事実に基づいた対応ができるよう規定しておくことが不可欠です。

・ハラスメント対策:職員間のハラスメントを防止し、発生時に適切に対処する体制(通報窓口の設置、調査義務など)を明記します。これは、使用者の安全配慮義務を果たす上で必須の項目です。

・カスタマーハラスメントへの対応:患者からの社会通念上不相当な要求(カスタマーハラスメント)に対し、組織として対応する体制を整える必要があります。職員を守り、労災や損害賠償責任のリスクを回避するために重要です。

4 弁護士に依頼するメリット

就業規則の作成・運用を弁護士に依頼することには、以下のようなメリットがあります。

・法的リスクの回避:労働基準法や最新の裁判例に基づいた就業規則を作成することで、法令違反や将来の損害賠償責任といったリスクを回避できます。特に、固定残業代や解雇に関する規定は、専門的な知見がなければ無効と判断される危険があります。

・トラブルの未然防止:残業代請求やハラスメントなど、労務トラブルの火種となりやすい点について、紛争を未然に防ぐための具体的な条項を盛り込むことができます。明確なルールがあることで、職員も安心して働くことができます。

・最新の法改正への対応:働き方改革関連法や各種判例の蓄積など、労働法制は常に変化しています。弁護士はこれらの最新情報を把握しており、就業規則を常に適法な状態に保つことができます。

5 就業規則の定期的な見直しの重要性

就業規則は一度作成したら終わりではありません。法改正や裁判例の動向、そしてクリニックの運営状況の変化に応じて、定期的に内容を見直し、更新していく必要があります。例えば、固定残業代の有効性に関する判例は日々蓄積されており、これに合わせて契約書や規程を見直さなければ、意図せず無効と判断されるリスクがあります。適切な見直しを怠ると、規程が実態にそぐわなくなり、トラブルの原因となりかねません。

6 当事務所のサポート内容

当事務所では、クリニックが抱える特有の労務問題に対応するため、顧問弁護士として、次のような内容を含む包括的なサポートを提供いたします。

・医師、看護師、技師など、各職種の実態に合わせた就業規則・賃金規程等の作成・改訂

・2024年問題や宿日直制度など、複雑な労働時間管理に関する制度設計とアドバイス

・残業代請求やハラスメント、問題社員対応など、日々発生する労務問題に関する具体的な解決策のご提案

・最新の法令・裁判例を踏まえた労務管理を行うためのアドバイス

上記をはじめとして、適切な労務管理体制を構築し、医師の先生方が安心して診療に専念できる環境作りを、法務面から強力にバックアップいたします。就業規則の作成をご検討の際には、是非ご相談いただければと存じます。

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Last Updated on 2025年7月25日 by loi_wp_admin


この記事の執筆者:弁護士法人ロア・ユナイテッド法律事務所
当事務所では、「依頼者志向の理念」の下に、所員が一体となって「最良の法律サービス」をより早く、より経済的に、かつどこよりも感じ良く親切に提供することを目標に日々行動しております。「基本的人権(Liberty)の擁護、社会正義の実現という弁護士の基本的責務を忘れず、これを含む弁護士としての依頼者の正当な利益の迅速・適正かつ親切な実現という職責を遂行し(Operation)、その前提としての知性と新たな情報(Intelligence)を求める不断の努力を怠らず、LOIの基本理念である依頼者志向を追求する」 以上の理念の下、それを組織として、ご提供する事を肝に命じて、皆様の法律業務パートナーとして努めて行きたいと考えております。現在法曹界にも大きな変化が起こっておりますが、変化に負けない体制を作り、皆様のお役に立っていきたいと念じております。