社員の業務上横領を刑事告訴する会社側のデメリットとは?弁護士が解説!

文責:中野 博和

社員の業務上横領を刑事告訴する会社側のデメリットとは?弁護士が解説!

1 業務上横領とは?

「業務上横領」とは、業務上自己の占有する他人の物を不法に領得することを指します。

すなわち、会社の経理担当が金銭を着服する場合や、倉庫業における管理担当者が管理している物を他者へ売却する場合など、会社の業務上、一時的であっても会社その他の他人の財物の管理・占有を任されている者が、その財物を自分の物にすることが業務上横領に当たります。

会社の備品を盗む場合のように、会社内の財物の管理を任されていない従業員がその財物を奪う行為は、業務上横領ではなく、窃盗などに当たります。

業務上横領は、業務上の信任関係による占有という立場を悪用するものであるため、刑法上単純横領罪より重く、10年以下の懲役という重い刑罰が定められています(刑法253条)。

2 業務上横領で社員を刑事告訴することができる?

刑事告訴とは、被害者、被害者の法定代理人、被害者が死亡した場合はその配偶者、直系親族、兄弟姉妹などの一定の者が、捜査機関に対して犯罪事実を申告して犯人の処罰を求めることをいいます。

そのため、会社が業務上横領の被害者である場合には、会社が刑事告訴をすることができます。

刑事告訴があった場合、司法警察員は、速やかにこれに関する書類及び証拠物を検察官に送付しなければならないものとされています(刑事訴訟法242条)。

また、検察官は、刑事告訴があった事件について、起訴した場合、不起訴とした場合のいずれの場合においても、速やかにそのことを告訴人に通知しなければならない(刑事訴訟法260条)ため、刑事告訴をした場合には、被害者である会社は起訴、不起訴の結果を知ることができます。さらに、不起訴の場合、検察官は、告訴人が請求したときは、速やかに告訴人にその理由を告げなければならないものとされています(刑事訴訟法261条)。

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3 刑事告訴する場合の会社側のデメリット

① 刑事手続において認められる被害金額が損害賠償請求において認められる被害金額よりも低くなる可能性がある

業務上横領事件について刑事告訴をした場合において、検察官が起訴したときは、刑事裁判となります。刑事裁判では、被告人は有罪となれば、執行猶予等にならない限り刑罰が科されることになることから、民事裁判と比べて、慎重かつ厳格な事実認定が行われています。そのため、刑事手続における検察官の起訴内容や刑事裁判の判決では、確実な証拠がある範囲でしか被害金額が認定されない可能性があり、この金額は、民事の損害賠償請求における被害金額の認定にも影響を与える可能性もあります。

したがって、刑事手続において認定された被害金額に引きずられて、民事における損害賠償金額が下がってしまうリスクがあります。

② 会社の社会的評価が下がる可能性がある

業務上横領事件について刑事告訴をした場合において、検察官が起訴したときは、刑事裁判となりますが、公開の法廷で審理されることになります。そのため、業務上横領をするような従業員が所属している又は所属していたことが、公開の法廷で明らかになる可能性があります。また、審理の過程で、業務上横領が発生したことが、会社の管理体制に不備があったことが原因であったことが判明した場合には、会社の管理体制への社会的信用が害され、投資判断にも悪影響を及ぼす可能性もあります。

刑事告訴をすること自体は、会社が犯罪に対して毅然とした態度を示すことができ、ひいては危機管理意識、コンプライアンス意識の高さを示すことにもなり得ますが、場合によっては、上記のような、レピュテーションリスクもはらんでいることには注意が必要でしょう。

③ 捜査に協力するための時間をとられる可能性がある

刑事告訴をした場合、捜査機関による捜査が行われますが、捜査機関から捜査のための資料の提供を求められたり、事件の関係者からの事情聴取が行われたりすることがあり得ます。これらの捜査協力に対応するために、従業員が時間をとられてしまう可能性もあります。

4 業務上横領の際に会社側が取るべき対応

① 事実関係の確認

横領された財産の管理記録の確認、関係者へのヒアリングなどにより、業務上横領を行った者や横領された財産の特定、横領行為の具体的な態様、横領行為に至った動機などの事実関係を確認する必要があります。

② 懲戒処分

業務上横領は犯罪行為であり、重大な企業秩序違反ですので、懲戒解雇をはじめとした懲戒処分を検討する必要があるでしょう。また、横領行為を行った本人はもちろんですが、上司の監督が不十分であった場合には、上司に対する懲戒処分も検討するべきです。ただし、横領行為が巧妙に行われ、上司が通常の注意を払っても、横領の事実に気付くことができなかったような場合には、上司に懲戒処分を科すことは難しいでしょう。また、実際に上司に懲戒処分を科す場合にも、譴責等の軽微な処分にとどまることが多いでしょう。

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③ 損害賠償請求

業務上横領によって生じた損害について、行為者に対して損害賠償請求をすることが考えられます。交渉で合意に至らなかった場合、民事訴訟等の法的手続をとることを検討することになります。民事訴訟においては、損害賠償請求の内容について、証拠に基づいて立証をすることができなければ、請求が認められませんので、事実関係の確認の段階において、どれだけ証拠を収集することができるかが重要になってきます。

④ 刑事告訴

上記のとおり、刑事告訴にはデメリットもあります。特に被害額として認められる可能性があることからすると、一定の賠償金を支払ってもらうことを条件に、刑事告訴を行わないものとすることを、業務上横領を行った社員に伝えることなども考えられます。

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5 社員を刑事告訴する場合の手続き

① 告訴状の作成・提出

刑事告訴にあたって、まずは、告訴状を作成し、これを捜査機関に提出することが必要です。刑事告訴は、書面によってのみならず、口頭でも行うこともできます。もっとも、告訴の内容が説得力のあるものであれば、捜査機関の捜査もスムーズに進むことを期待することができるところ、口頭の場合、必ずしも理路整然と事案の内容等を捜査機関に説明することができない可能性があります。書面による場合には、事前に会社としての認識をまとめておくことができますので、書面により刑事告訴をすることが望ましいといえるでしょう。

② 捜査への協力

告訴状に基づいて捜査機関による捜査がなされますが、横領をした本人だけでなく、会社の関係者の事情聴取が求められたり、関係資料の提出などを求められたりすることがありますので、会社としては、これらに協力する必要があります。

③ 検察官による起訴又は不起訴の決定

捜査が終了すると、検察官は起訴するか、不起訴とするかを決定することになります。

④ 裁判所にて刑事裁判が開かれる

業務上横領で起訴された場合、公開の法廷で刑事裁判が開かれ、最終的に判決が下されます。

6 業務上横領について当事務所がサポートできること

当事務所では、労働問題に精通した弁護士が多数在籍しており、業務上横領事案が起きたときの事実関係の調査、従業員の処遇、懲戒処分、金銭の回収や退職手続、刑事告訴等の留意点についてアドバイスさせていただくことができます。これにより、会社は、初期対応を誤ることなく事案に取り組むことができます。当事務所は、場合に応じて従業員との話し合いや処分への立会い、書面の作成、刑事告訴の手続等を担当いたします。

従業員の業務上横領などの犯罪行為や問題行動については、その疑いがあるときから、当事務所にご相談の上、早期に適切に対応することをお勧めいたします。

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Last Updated on 2024年7月2日 by loi_wp_admin


この記事の執筆者:弁護士法人ロア・ユナイテッド法律事務所
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